内容説明
不能老人の持つ乾いた匂い、義理の息子への激しい肉欲、美に執着する醜い男、異端の老作家の癒しがたい孤独、年下の青年の「手」の感触に惹かれる中年女性…。性愛だけではない、男女のひそやかなエロティシズムの世界を描いた六篇を収める。官能の世界を描き続けてきた著者のエッセンスを凝縮した短篇集。
著者等紹介
小池真理子[コイケマリコ]
1952年、東京生まれ。成蹊大学文学部卒業。89年、「妻の女友達」で日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。96年『恋』で第114回直木賞、98年『欲望』で第5回島清恋愛文学賞を受賞。初期の心理サスペンスから男女の恋愛まで作品の幅は広く、特にその官能描写はいま最も評価の高い作家である
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
397
'90年代(著者40代)に主として「オール読物」に掲載された短篇を6篇収録。いずれもシーンは日常的だが、シチュエーションはやや特異(極端な年齢差の「静かな妾宅」や表題作など)である。また主人公に選ばれた女性たちは全てそれ相応の年齢。そのせいというわけではないが、いつもの小池真理子の小説に比べると、華やかさに欠けるか。それは愛情のありかたが一方的であり、インタラクティヴな緊張感に乏しいからかとも思われる。面白くないわけではないが、読者がこの作者に求めているものはこれではないだろう。2021/05/06
ミカママ
170
タイトルどおり、幻や夢にまつわる短編集・・・なのかな。全編に漂うアヤシイ雰囲気を楽しみながら。ラストの『シャンプーボーイ』、息子のような年回りの青年に惹かれながらも、自分の老いを自覚する主人公に、悲哀を感じてしまった。小池さんらしい作品集でした。2016/04/16
じいじ
69
六編の短篇集。各々趣向が凝らされていてどれもいい。コミカルな感じ、ミステリー色を演出したもの、そして、全編を通して貫かれる官能表現は小池さんの持ち味を存分に感じさせてくれる。お薦めの順列は付けにくいが、強いて付けるなら次の2作が好きだ。[秋桜の家]妻に先立たれた誠実な55歳の男と38歳の女の恋話。一人息子も絡んでの展開が面白い。コスモス畑の背景描写が美しくて素敵だ。中年女性の控えめな魅力を醸し出した、表題作「ひるの幻…」がいい味だ。72歳の作家と身の回りを世話する47歳の独身女性の歯がゆい大人の恋の話。2016/01/23
KEI
31
表題作を含む6編の短編。何やら妖しく夢想の世界に引き込まれる様でホラーでもありミステリの様な作品。どれも甲乙付け難いが、【彼なりの美学】の主人公が「美しい、美しい」と言われ続けて男の思い通りに会社を辞めて泊まり込み、男の美学に沿わなければと変わっていき、その結果がホラーで面白かった。【シャンプーボーイ】主人公が通う美容院の無口だが、筋肉が隆々としたシャンプーボーイに心惹かれていく。親子ほど歳の離れた青年の腕と自分の年齢を自覚する姿に悲哀を感じる。心象描写が見事だった。2025/11/02
ぐうぐう
28
夜に見る幻が夢で、昼に見る幻は白昼夢になる。寝ている時に見る夢は、その人の潜在的な想いが幻となっているが、白昼夢は幻を引き起こしている自身の想いに自覚的である分、残酷さを伴っている。ここに収められた短編で主人公の女性達は、自身の想いが引き起こす幻をそれぞれ見る。その幻は女性達を救うこともあれば、悲劇へと導くこともある。しかし、どちらにせよ、そこには痛みが生じ、やはり残酷性がつきまとうのだ。起きていても寝ていても夢を見続けているのなら、人は幻の中で過ごしているとも言える。(つづく)2020/02/16




