出版社内容情報
戦中は大本営参謀。戦後は大商社の企業参謀。そして総理の政治参謀─激動の昭和を裏からリードしてきた男の60年の軌跡を検証する
内容説明
陸大を優等な成績で卒業し、太平洋戦下の大本営作戦参謀を勤め、戦後は高度成長期に商社の企業参謀、さらに中曽根行革で総理の政治参謀として活躍―。激動の昭和を常に背後からリードしてきた瀬島龍三。彼の60年の軌跡を彩る数数の伝説を検証し、日本型エリートの功罪と歴史に対する指導者の責任を問うノンフィクション力作。
目次
第1章 シベリア体験の虚と実
第2章 大本営参謀としての肖像
第3章 敗戦に至る軍人の軌跡
第4章 商社経営者への道
第5章 臨調委員の隠れた足跡
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hatayan
49
1991年刊。太平洋戦争で大本営の作戦参謀、戦後は商社で異例の出世、晩年は行革の影の主役として活躍。山崎豊子『不毛地帯』の主人公のモデルとされた瀬島龍三。 瀬島は組織の意を汲んで動く極めて優秀な参謀でしたが、過大な戦果を修正した電報を握りつぶした疑惑、シベリアの捕虜抑留を戦後の人的補償としてソ連と秘かに交渉していた疑惑など、肝心な場面を問われると曖昧な態度で濁します。著者は関係者の証言を集めて、語られないことに真実が宿るという仮説の検証に一定成功しています。 当事者が存命の時期に著された貴重な一冊です。2019/10/05
yoshida
37
瀬島龍三が亡くなって久しいが、彼は話さなければいけない事を話さずに亡くなった。すなわち、シベリア抑留や大東亜戦争での台湾沖航空戦電報握りつぶしの真偽である。正直、ソ連で生き延びる為にシベリア抑留を認め、情報の握りつぶしも行ったのだろう。彼はこのおびただしい犠牲に対し、謝罪もなく95才で亡くなった。大本営参謀としての責任をとらなかった。このようなノンフィクションを読み次ぎ、先人の歩みや苦労を忘れてはならないと思う。2014/12/14
Willie the Wildcat
32
真実は1つであっても、異なる視点で事実も異なる。瀬島氏の果たした義務と齎した責任。史実と証言の積み重ねが”状況”を作り上げる。責任の定義とは?史実を丁寧にまとめあげるも、若干著者の感情的な表現が、気になるところ。伊藤忠社長となれなかった点も、”参謀”たる所以。(是非はともかく)公私企業での実績から、名参謀の1スタイルなのかもしれない。2014/04/23
高橋 橘苑
26
大阪人だからか(言い訳だが)、歩道の赤信号は渡ってしまう事がある。しかし、子供が周囲にいるかは確認する。大人として、次世代に対する配慮があるからである(苦笑)。次世代に対する責任は、何か含羞を含んだものになるのではないか。失敗や後悔の苦い思い出を通じて、言葉にしにくい何かを伝えたいと思うのではないだろうか。瀬島は歴史の証言者として、語るべき責任を回避している。「この日本ほど世界でいい国はない、と私は信じております」と瀬島は語るが、そのとおりだと自分も思う。著者の指摘する様に、その言葉に含羞は感じられない。2017/05/04
藤瀬こうたろー
24
太平洋戦争時、陸軍大本営の作戦課で陸軍少佐として在籍し、シベリア抑留後、伊藤忠商事で会長職まで勤め上げ、その後、臨調のメンバーとして行政改革に携わった人物の話。この本では、大本営の参謀としての責任や終戦直後のソ連との取引疑惑を含め、瀬島氏が説明責任を果たしていないことを弾劾しています。ただ、文中で後藤田正晴さんの言う通り人物評価は難しい。人の事をひたすら悪く書こうと思えばこういう内容になるという見方もできます。責められる部分は多分にありますが、良くも悪くも典型的な調整型の秀才というのが率直な感想です。2020/03/31