内容説明
勝海舟と知り合った宇源太は、勝の頼みで浦上へキリシタンの救済に向う。幕藩体制が崩壊すれば、信仰の自由を手に入れることができると信じた敬虔な人たち。しかし、その思いを新政府は無残に打ち砕いていく。数多くの研究書・史料を駆使し、「日本はなぜ神のいない国になったのか」を問いかける傑作時代小説。
著者等紹介
海老沢泰久[エビサワヤスヒサ]
昭和25(1950)年、茨城県生れ。国学院大学卒業。同大学折口博士記念古代研究所勤務ののち、著述に専念。63年「F1地上の夢」で新田次郎文学賞受賞。平成6年「帰郷」で直木賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ntahima
35
何となく神仏習合を八百万の神々に抱かれた日本文化の懐の深さと理解してきたが実態はかなり異なるようだ。江戸時代の仏教は国家統治のための行政機構の一翼を担う存在へと身を落とし最早、宗教とは言えない存在であったように描かれている。それに対するアンチテーゼとしての神道と神仏分離の思想が維新前後、政治的に利用され狂気とも言える廃仏毀釈へと流れ着く。さらに仏教・神道の名に隠れ生き続ける人民支配の道具と変わり果てた儒教の教え。近世以来我が国が八百万の神々の国ではなく神無国であったことが見て取れる。小説より論として読む。2011/03/28
はま
25
ハーさんに借りた本。仏教、神道、キリシタンの三つ巴から見た幕末維新ものの下巻。ほんとーに古文漢文歴史的仮名遣いに候文が大変です。途中、ストーリーも忘れ去られた如くに当時の宗教的な歴史背景がうんたらかんたら続いちゃうんだけど(それはそれで面白い内容でした)、ラスト手前の老婆と祠で祈るシーンで凄い鳥肌たった。「宗教ってこういう事か」となんだかストンと腑に落ちた。でもまーこれ読んだら仏教とか神道とかどうしても真っ直ぐには見れないなー(笑)2013/10/09
三柴ゆよし
6
キリシタン類族の末裔で、天稟の剣才の持ち主でもある右源太(藤右衛門)が幕末維新期という激動の時代を駆け抜ける傑作長編。日本人にとって神とはなにか。重い命題である。日本とは宗教なき国家だ、などとしたり顔で語る阿呆をたまにみかける。実際はそうではなかった。近代日本という国家は、すでにその成立からして宗教に翻弄されていたのである。文章も素晴らしい。淡々としていながら、読者を物語の渦中にずるずると引き摺りこむ。達意の文章とはこういうものだ。俺には絶対書けない。いま、空は青く広がっているか?2009/10/08
Fumoh
5
下巻においては、幕末の終わりごろの事件の描写に移っていくが、やっていることは変わらない。宗教というか、ただの幕末の歴史資料のような感じ。キャラクターは動いていて会話もしているが、生きている人間のような心の動きはほとんど感じられない。全体的に何を言いたいのかもわからない。宗教、宗教というが、これほど心のこもらない作者の「宗教」などというと、実質的な内容のあるものとは到底思えない、単なる形だけの、教科書のような宗教論のようにしか感じられない。「宗教」という言葉を使わずとも、もっと宗教的な何かを描いている作家は2024/06/09
茶々太郎
3
それなりに興味深く読んだが、後世から見て善悪を論じているようなアンフェアさを感じないと言えば嘘になるかも。禁教の停止まで描いて欲しかったね。2014/04/11