内容説明
言葉に関する幼年期の特別な環境、家への憎悪と絶望的な孤独感、新内や義太夫への耽溺、結婚を控えての心中事件と罪の意識、そして「太宰治」という筆名に秘められた思い…。彼にとって「書く」ことは「演じる」ことであったのか。太宰治の幼年期から青春時代までを克明にたどって、その人物像を塗りかえた著者渾身の評伝。
著者等紹介
長部日出雄[オサベヒデオ]
1934年、青森県弘前市生まれ。早稲田大学中退。週刊誌記者、ルポライター、映画評論家等を経て作家生活に入る。73年、「津軽世去れ節」「津軽じょんから節」で直木賞受賞。『鬼が来た 棟方志功伝』で芸術選奨文部大臣賞、『見知らぬ戦場』で新田次郎文学賞をそれぞれ受賞。太宰治の絶頂期から玉川上水での心中までを描いた『桜桃とキリスト』(文芸春秋)で大仏次郎賞、和辻哲郎文化賞を受賞する
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感想・レビュー
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KAZOO
94
文春文庫2分冊の太宰治伝の第1冊目で若かりし頃(といっても比較的若いころに自死しているわけですが)、青春時代までを克明な資料によって今までの太宰治とは異なった伝記になっています。かなり太宰治という人間に智数いていると感じました。やはり同じ津軽人ということで長部さんも力をかなり入れて書かれたようです。長部さんは文学者でありながらのちにマックス・ウェーバーの伝記を書かれたのも同じ考え方・手法によるものだと思います。2015/09/03
おけいさん
4
数年前に金木の太宰治記念館に行った時のことを思い出しながら読んだ。この前半生を読むと、いかに実家の経済力に支えられていたかがよくわかる。この甘えん坊がだんだん自立していった中期の作品が好きな私としては、後半生の評伝も読まなくてはなるまい。2015/10/23
i-miya
4
(副題)もう一つの太宰治伝。『文學界』1995.03-1996.10『神話世界の太宰治』相馬正一『若き日の太宰治』が記念碑的幼少、青年時代。 一. 家は生き物だと修治は思う、早熟。数えで6歳。並外れて早熟。父が東京から帰ってきたときのことである。脳裏に書き残した文字、ことごとく明瞭に読み返すことができる。津島源右衛門。人の目を引きたい持ち前の欲求。母たね。留守母は叔母のきゑ。タケ・・・家庭教師役。3歳の夏からの住み込みで年季奉公。祖母いし。金木銀行を経営する津島家。三上やゑ先生。2009/10/13
花神
2
太宰の幼少期から麻薬中毒に陥るまでを描いた名評伝。早熟した才能を見せつつも、家族関係の希薄な環境で育った少年時代。尋常ではない自負心と驚くほどの臆病さ、理想主義者であり快楽主義者であるという矛盾した性格。"自殺"の意味。芥川賞への執着。太宰の人間像に鋭く迫り読み応えがある。2010/05/10