内容説明
父の失踪の謎を求めて降り立った上海で、運命の女と出会う。女は中国政府に追われる身。「女と良心の呵責を両腕に抱いて生きる」とうそぶいた父をなぞるかのように、危険な恋の扉が開かれる。逃避行の挙句の別れと再会。大胆にして甘美、華麗なロマンスは国を越え、政治に逆らって、もっとも美しいラストへと突き進む。
著者等紹介
辻原登[ツジハラノボル]
1945(昭和20)年和歌山県生まれ。90年「村の名前」で第103回芥川賞受賞。99年「翔べ麒麟」で第50回読売文学賞、2000年「遊動亭円木」で第36回谷崎潤一郎賞、05年「枯葉の中の青い炎」で第31回川端康成文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
29
ロマンスと陰謀はよく似ている。両者のまえでは、取るに足らない偶然が、読み取られるべき符牒、あるいは運命的な恋の気配となる。日本統治下の旧上海と共産党政権下の新上海、父・脇種彦とその分身たる俳優・韓蘭根、悲恋の女スパイ・鄭蘋茹と彼女を演じる女優・李杏、父と上海女とのかつての恋をなぞるように繰り広げられる主人公・彬彦とある女の恋愛劇。この小説のすべてがダブル・フォーカスであり、登場人物たちは、自身を操る糸の存在に気付いた人形のように醒めている。が、それでいて、やはりそこは虚構らしく、非現実的なまでに情熱的だ。2017/03/25
501
20
上海と神戸を舞台に、第二次天安門事件の時代の中国で出会い、阪神淡路大震災の時代に再会する運命的なふたりのラブロマン。主人公男性が奇っ怪な失踪をした父親の行方を求めるのを軸に、中国の裏組織、権力、政治的背景といった要素を取り入れたまさにロマンで物語の展開はエンターテイメントとして面白い。だけど、長編の割に人物の行動原理を支える描写が、主人公ふたりでさえ弱く感じられ物足りなさが残る。まだ著者は2冊目で、「村の名前」からはいった自分としては本書の色合いの差に戸惑ったが、別の作品も読み進めたい。2016/05/10
KAZOO
17
辻原さんのエンターテイメント系の作品の最たるものではないかと思われます。神戸と上海の二つの都市を中心にはなしがすすむ冒険小説というか恋愛小説というか、楽しめます。やはり辻原さんの文章は私には心地よさを与えてくれます。2014/08/03
バトルランナ-
16
エドワードさんのコメントから、どうしても読みたくなり図書館から借りました!僕の大好きな三人称小説で好みではない人も多いとは思います。上海勤務同期に①『上海』ていう動詞聞いたことある?とか②『上海では人を指差すのは無礼なの?』とかラインで聞いて余裕かましてました!①は知らない②は日本と一緒。の回答でした!戦争保証→謝罪外交→ODA→政治資金を彷彿させる内容にふむふむって感じです!しかし、震災シーンから映画『サンフランシスコ』のように急展開。思えば震災小説って初めて読んだかも?小(泣)です!5点満点で4点2014/01/05
おくりゆう
14
個人的にはとても魅力的な裏表紙の粗筋からその期待を裏切らない面白さで、同時に、長いんだけどぐいぐい読ませられ、終わりが近づくと寂しくなる、久しぶりに長編らしい感覚がありました。中国政治(歴史)に通じているとより楽しめるのでしょうが、そうでなくても十分「大胆にして甘美、華麗なロマンス」を楽しめました。2015/06/21