出版社内容情報
村上春樹が敬愛する作家の短編集。ヴェトナム戦争で若者が見たものとは? 胸の内に「戦争」を抱えたすべての人におくる真実の物語
内容説明
日ざかりの小道で呆然と、「私が殺した男」を見つめる兵士、木陰から一歩踏み出したとたん、まるでセメント袋のように倒れた兵士、祭の午後、故郷の町をあてどなく車を走らせる帰還兵…。ヴェトナムの・本当の・戦争の・話とは?O・ヘンリー賞を受賞した「ゴースト・ソルジャーズ」をはじめ、心を揺さぶる、衝撃の短編小説集。胸の内に「戦争」を抱えたすべての人におくる22の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
268
本書の何ヵ所かで著者は「この物語はフィクションだ」と述べている。たしかに、個々の物語はフィクションなのだろう。しかし、物語群総体においては、著者のオブライエン自身がヴェトナムで実際に体験した戦争の真実の姿が、まさしくフィクションのスタイルでここに語られているのだ。戦争映画のように銃弾が飛び交うわけではない。むしろ、物語のほとんどの部分は兵士たちの耐えてる姿だ。そして、糞尿にまみれて泥土に呑みこまれていく姿なのだ。それは除隊後20年を経ても消えることはないし、彼らのそれぞれをその重みで圧迫しているのだ。2013/01/20
しんたろー
183
読友さん絶賛を機に手に取った…う~ん、へヴィ!エンタメ馬鹿な私にはその重さに圧倒されて迂闊な感想が書けない…戦争を体験した人の回顧録的な22の短編集は、ドキュメントのように淡々しているが、哀しいジョークも交えていて読み易い。飾りすぎない端的な表現で、ヴェトナムの戦場や帰還後のアメリカ田舎町が目に浮かぶように描かれていて情景が頭にスッと入ってくるのも良かった。(村上春樹さんの翻訳が上手なのだろう)どの短編も少なからず衝撃を受けたが『私が殺した男』『勇敢であること』『死者の生命』の3編は後々も読み返すだろう。2020/04/20
ケイ
157
思いついたまま語っているようで、話が飛んだりして、浮かんだ順に話を聞かせているよう。それが、読みにくいわけでなく、逆に語り手の傷の深さ、心の痛みを感じさせる。部下の死により戦争にまともに向かおうとするクロス中尉。死をジョークにすることで、死を正視しない兵士たち。ジャングルに囚われる女の子。喧嘩の仕返しがどれだけ怖いかということ(みんな銃を持っているから)戦争に行く前にカナダに逃げようとした主人公と数日過ごした寡黙な老人。友人がまさに死に逝く非現実的な様子。どれも本当の戦争の話だ。2015/12/22
まふ
118
ヴェトナム戦争に徴兵された陸軍の最前線兵士の物語。短編集の形をとっているがテーマも登場人物も一貫して同じなので、「章立て」と思えばよい。作者のティム・オブライエンが実名で登場するのでリアル感が増す。これまで映画、小説、ドキュメンタリーなどで戦争の激烈さ悲惨さは多く語られてきたが、この作品では同じ小隊の仲間意識に焦点を当てており、「家族より大事な戦友」への思いは読者の胸に突き刺さるようで、意味のない戦争は絶対やめるべきであると改めて思う。G1000。2024/02/18
扉のこちら側
116
初読。2015年1190冊め。【90/G1000】まず巻頭の「兵士たちの荷物」で、戦地に届いた彼女からの手紙で、戦地にいる自分と過去の幸せだった自分・彼女が決定的に隔たれてしまうことを悟るのが切ない。戦争の本であるが、これでもかと残虐なシーンがあるというわけではない。しかし戦地で戦ったこと、そこで見たもの聞いたものの記憶が、戦争が終わっても「こちら側」に戻ってこられない元兵士の悲哀を浮かび上がらせる。子どもに「お父さん人を殺したの?」と聞かれて答えられない帰還兵の辛さ。【第7回G1000チャレンジ】2015/12/06