出版社内容情報
西鶴の現代版ともいうべき人妻の恋の道行きを描いた表題作をはじめ、胡桃の部屋、幸福、下駄、そして著者の絶筆となった春が来た等、短篇の名手の傑作五篇を収録
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アッシュ姉
73
唯一無二の向田邦子さん。時代が移り変わっても素晴らしい作品は色褪せない。昭和から平成、そして令和になっても読み続けていきたい作家さん。平成最後の登録本にふさわしい短編集だった。2019/04/29
チヒロール
43
5つの短篇。「胡桃の部屋」は以前ドラマを先に観ていて、向田邦子さん独特の漫才を感じさせる喜劇的な雰囲気がホッとする。平凡な日常や人間模様をカラッとした文筆で登場人物を魅力的に料理する描き方は見事。特に「春が来た」は主人公やその家族が主人公の恋人風見の登場で陰気さがみるみる明るさを増し輝いてくる様子は希望が湧いてくる。2013/09/22
つちのこ
39
表紙画は愁いを帯びた表情で見つめる女性。作者は美人画の巨匠、風間完。これだけでもこの短編集は価値がある。収められた五篇には、表紙の絵を彷彿とさせる女性たちが登場する。控え目に見えても芯の強さを隠した女性。そして大胆で、竹を割ったような性格。「隣の女」のサチ子はニューヨークへ飛び出し、「幸福」のなかの素子は過去を赦し今を選ぶ。「胡桃の部屋」は、男勝りの桃子。「春が来た」の直子には、現状を冷静に受け止める素直さがある。暗くやるせない重い話でも、最後は明るく締める結末にする著者の優しさは、天性のものだろうか。2025/07/12
ココ
39
五編。短い小説の中に、ぎっしり詰まった女たちの情念。しかも、ごく普通の平凡とも言える日常を、地に足を付けて堅実に生きる女たち。 どの物語も、一度は何処かで読んだり、映像で目にしているのに、新鮮だ。 私は、向田作品を後何回読み返せば気が済むのだろう。2018/06/23
あつひめ
31
胡桃の部屋がドラマ化されると知り急いで予約。すぐに手元に届きました。向田作品初読み。物語を自分のイメージで膨らませやすく、大袈裟でなく実際にありそうなごく普通の出来事をじっくりと調理しているような・・・。その味付けもあっさりしているのにお腹に入るとコッテリと。男の心よりも女の心に重点を置いているような気がする、おとなしそうな顔をしていてもやっぱり女であることには変わりない。いつ脱皮して蝶になるのか・・・ドキドキするような気持ちで読んでしまった。胡桃の部屋がどんなふうに映像化されるのか楽しみでもある。2011/07/24