出版社内容情報
結婚二十八年の夫婦が友人の葬式のため、車で出かけていったが…。人物描写と温かなユーモアに定評ある著者の代表作、待望の文庫化
内容説明
周りの人の幸せを願うあまり、ついお節介をやいては話をややこしくしてしまうマギー。結婚28年目を迎える夫アイラと、ある日友人の葬式のため車で出かけていく。普通の人々のなんでもない日常を描いているのに、読みはじめるとわくわく、しみじみおかしくて少しほろ苦い珠玉の一作。ピュリツァー賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
291
1989年ピューリッツアー賞受賞作。ボルティモアに住むアイラ(50歳)とマギー(48歳)夫妻が、ある日(二人に共通の友人の葬儀の日)ペンシルベニア州の田舎町に出かけた一日(回想をふんだんに含む)の、ある意味ではきわめて日常的な光景を淡々と描いた小説。葬儀の式場で彼らは高校の同窓生たちと集い、それぞれに齢をとったことを知るなど、小説は徹頭徹尾、彼ら中年男女の失われた日々を描いてゆく。彼らの息子ジェシー、娘のデイジー、そして孫のルロイ。これはアメリカの理想の家族像でもあり、その崩壊の予兆でもあるのだろう。2016/03/21
ミカママ
246
【原書】彼女の作品は『歳月のはしご』についで2作目。アラフィフの夫婦が、友人のお葬式に参列するため、1時間ほどもかけて州外へロードトリップをすることに始まる。そこで諦めかけていた、息子の別れた嫁と孫娘を連れ帰ることに成功し・・・。感動的な!できすぎな!と思うでしょ?そこはタイラー女史なんだな。アメリカにおける「家族」に対する皮肉な見方を捨てていない。中高年の夫婦にだって、ときめいてた時代はあったわけだし、認めたくはないが、ダメな息子はダメ。それでも人生は続いていくのだ。余韻の残る、すばらしい作品だった。2017/08/25
まふ
101
「自己中の空回り善意妻」マギーの行状記。これに配する夫はアイラのごとく忍耐強く優しい男でなければならない。まるまる1冊がマギーの思い込み的善意行動に引っ張られ、田辺聖子の世界を髣髴とさせるが、こちらの方がやや薄味かも知れない。すべてを理解した上でつっけんどんに突放しつつマギーを教導(?)するアイラの「人間力」と深い「愛」を高く評価したい。また、些細な話題を集めて一冊分を物語化しピュリッツァ賞を受賞した作者の「力量」に敬意を表する。G516/1000。2024/05/21
白玉あずき
31
マギーは「愛したい愛されたい症候群」か、または究極の自己中。自分を客観視できない物語世界の住人。それに対して夫のアイラは忍耐と受容の人。極端な造形で読ませる人間模様。面白いです。家庭が空の巣になろうとも、これからも人生はどんどん厳しさ、寂しさを増しながら続いていく。「ゲームは佳境に入っていた。どんな数字も自在に動かせるかに見える初期の段階を過ぎ、選択の余地が狭まり、的確な判断がものをいう段階になっていた。ここが腕の見せどころだ。」どなた様も頑張れ。やはりこの作品は人生の応援歌だね。2019/07/07
ヘラジカ
16
序盤はマギーの行動や性格にイライラさせられはしたが、コミカルな展開を喜劇として単純に楽しむことが出来た。しかし物語(旅)の終着点が見え始める頃には、じわじわと焦燥感が滲みはじめ『アクシデンタル・ツーリスト』終盤の「どうなるのだろう?」というハラハラ感も再び味わうことになった。そして不安の的中してしまう結末。最後の一文を読み終えた途端、これまでの騒々しいコメディとは真逆の、切なさと空虚感の混じりあった苦さを噛み締めていた。2017/02/17