出版社内容情報
天智帝のひめみこ山辺は大津皇子と結ばれ、皇后の地位を夢見るがいま一歩で──古代の熾烈な権力争いと奔放な恋の顛末を描く九篇
内容説明
天智帝のひめみこ山辺は大津皇子と結ばれ、皇后の座にはまさに今一歩と思われた。一族入り乱れる権力争いの波間に漂う彼女の運命は。(「裸足の皇女」)天武帝の皇子新田部は、母が異母兄藤原不比等と結ばれたことを知って…。(「殯の庭」)古代の朝廷に渦まく熾烈な策謀と奔放な恋のゆくえを描く小説9篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
紅香
28
マハさんが一枚の絵から物語を紡ぐのに対し、永井さんは支流から離れた枝葉の人物、万葉集の歌から、発掘された器の欠片からも物語を紡ぐ。その莫大な人の想いに顔があることに感動を覚えた9つの短編集。幼い新田部皇子がチチミカドのモガリから何人ものモガリを通して処世術を知って行く『殯の庭』が特に印象的だった。『恋の奴』以降の短編は万葉集から見た人間模様。万葉集も意外と訳ありの恋が多く、杓子定規的に縛られている私の心を貫くような強さがそこにはあった。『来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを』2022/05/04
丸猫うどん(旧カレーうどん)
21
明日をも知らぬ毎日だから、恋するのも全力。誰かと愛を語らうことで、生きている実感を得ていたのか。古代は戦国時代とまた違う熱さがある時代ですね。人物の関係図はややこしかったが、どの話も良かった。2016/09/08
ten
17
「天空の虹」を読んでる最中から、無性に永井さんの作品を読みたくなった。奥付は1992年なので、私の永井コレクションの中でも最後に近い作品。万葉歌とリンクさせた9編の短編集。表題の「裸足の皇女」と「殯の庭」が好き。作者あとがきもなかなかおもしろかった。「大津の非業の死は、わが子草壁を溺愛する持統のエゴによるという解釈が多いが、倉山田系の血をひく持統が、赤兄系の山辺の立后を許すはずがない、というのが私の私見である」そうそう、これこれ。このあと、「天上の虹」とかなり同時進行の「美貌の女帝」読みます。2016/03/29
クラムボン
13
飛鳥から奈良時代にかけての短編集です。この時代は、天智天皇系、天武天皇系、蘇我一族、藤原一族などの血縁関係が入り乱れて、人物の素性を見定めないと、訳が分からなくなります。系図が載ってないので頭は混乱、苦戦しました。表題の『裸足の皇女』は天智帝の娘の山辺皇女です。母方の祖父は蘇我赤兄。権謀術数で生き残るが壬申の乱で配流。そして山辺の愛する大津皇子は皇太子の有力候補ながら陰謀で葬られる。赤兄が陥れた有間皇子の死が微妙に重なる。有馬の詠んだ《結んだ松が枝を再び見たい》がこの物語の最後にスパイスとして利きます。2021/05/11
inarix
11
祖父・蘇我赤兄の夢を果たそうとしながら、皇后の座へ今一歩という所で欺かれた山辺皇女は、夫・大津皇子が自裁した訳語田(おさた)の地へと、我を忘れ裸足で飛鳥の道を駆け抜ける。表題作『裸足の皇女』、坂上郎女の恋路を辿る連作『恋の奴』『黒馬の来る夜』『水城相聞』『古りにしを』、有名な相聞歌を後世に残す中臣宅守と弟上娘子の禁じられた恋を描く『火の恋』ほか。蘇我家から藤原家への時代の変遷を描く短編集。奔放で、ひたむきで、命がけ。一族を栄達へ導き、ときに滅亡へと追いやることもある骨太な万葉の恋を、迫力ある筆致で描く。 2016/09/04