出版社内容情報
好色漢の代名詞とされる稀代の浮世絵師・歌麿には愛妻家の一面もあった。著者独自の手法と構成で浮き彫りにされる人間・歌麿の貌。
内容説明
江戸の町の人びとや風景を生き生きと描いた浮世絵師には、素性が知れていない人が多い。生涯美人絵を描き、「歌まくら」「ねがひの糸口」といった枕絵の名作を残した喜多川歌麿は、好色漢の代名詞とされているが、実は愛妻家の意外な一面もあった。著者独自の手法と構成で人間・歌麿を描き出した傑作長編。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
昭和2(1927)年、鶴岡市に生れる。山形師範学校卒。48年「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞。著書に、「白き瓶―小説長塚節」(吉川英治文学賞)など多数。平成元年、菊池寛賞受賞、6年に朝日賞、同年東京都文化賞受賞、7年、紫綬褒章受章。9年1月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
122
【海坂藩城下町 第3回読書の集い「冬」参加】藤沢周平の描いた浮世絵師・歌麿は、彼流の解釈で面白かった。好色漢の異名を浴びた歌麿も、妻を得てからは愛妻家だったようだ。生涯、美人画を描き続けたのだから、芯は女性が好きだったのだろうが…。病で妻を失ってからは、後添いを迎えなかったのは愛妻家の証しか。描きたい女を見つけた後の、絵師歌麿の女へ燃やす執念はすさまじい。その気に入った女の姿態描写は、藤沢氏らしい素朴な色っぽさで、私は好きだ。これからゆっくり、歌麿の美人画をネットで観ようと思っている。2017/12/01
yoshida
110
美人絵を描く喜多川歌麿。様々な女達を通じて描かれる悲哀。松平定信の改革下、美人絵も取締りが見え版元は役者絵を依頼する。頑なに美人絵を描く歌麿。新たに勃興する写楽。自身の人気が絶頂にあるが、力の衰えを自覚する歌麿の悲哀がある。特に最終話の「夜に凍えて」が最も印象に残る。いずれは所帯を持つと互いに思っていた千代も再嫁の為、歌麿から去る。家庭を持ち、それに付随するあれこれへの歌麿の怠惰な気持ちが千代を去らせる。己の力の衰えと、老いへの暗鬱たる気持ちがあるが歌麿は女を描く強烈な本能を見せる。ひとつの意欲作と思う。2021/01/12
ふじさん
92
生涯美人画を描き、稀代の浮世絵師・喜多川歌麿、好色漢のイメージが強いが、藤沢周平の描いた歌麿は、愛妻家であり妻を亡くし悩み多き一人の生身の人間として描かれている。彼の絵のモデルになった女の生き方を通して、歌麿の人間性が垣間見え、歌麿のイメージが変わった。又、蔦屋重三郎や山東京伝、馬琴、写楽等が登場し、その当時の時代の雰囲気も味わうことが出来た。 2022/02/15
真理そら
62
再読。6編からなる連作短編集のような長編。様々なタイプ女の絵を描いている歌麿だがなかなか思うようにいかない。それをモデルの女への自分の理解の変化のように感じて気怠く過ごす歌麿だが『夜に凍えて』で蔦重に写楽の絵を見せられ、近頃の(歌麿の)絵はどの女も顔が同じだと言われる。蔦重と歌麿の不仲というエピソードがうまく作品の中に生かされていて「さすが!」と感じた。売れるまでの自信喪失と心の凍るような思いには若さがあったが、いま見えるのは老いと死だけだという記述が創作者としての作者自身の寂しさのようで心に響く。2020/04/11
ともくん
60
浮世絵師、喜多川歌麿の全盛期から衰退するまでを女性と絡めて描いた連作短編集。 江戸の人達の心の機微、移ろいが繊細に描かれている。 歌麿の浮世絵を見ながら読むと、感情移入しやすくなる。2020/08/04