内容説明
一族の面汚しとして死んだ放蕩者の兄のため、理不尽ともいえる仇討ちを甥に挑む又蔵。鮮烈かつ哀切極まる決闘場面の感動が語り継がれる表題作の他、島帰りの男と彼を慕う娘との束の間の幸せを描いた「割れた月」など「主人公たちは、いずれも暗い宿命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ」と作者が語った初期の名品集。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
昭和2(1927)年、鶴岡市に生れる。山形師範学校卒。48年「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞。主要な作品として「白き瓶 小説長塚節」(吉川英治文学賞)など多数。平成元年、菊池寛賞受賞、平成6年に朝日賞、同年東京都文化賞受賞、平成7年、紫綬褒章受章。平成9年1月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケンイチミズバ
120
逆恨みで降りかかる理不尽な殺生。斬りかかられ刃を振り払っただけに過ぎないのに。脱藩した者がおめおめと金策のため舞い戻るのがいけない。兄の復讐に燃える炎をふつふつと絶やすことなく剣を修錬した弟は時代がとうに刀から学問になっているのに顔も知らない、しかも遠縁にあたる親戚ではないか、叔父に仇討ちを告げる。私なら逃げる。説得しても無駄ならそれが正しい道だ。恥もクソもない命あってのこと。が、武士のDNAが卑怯者と言われ、立ち止まることをさせた。虚しいほどに滑稽な命のやり取り。プライドが許さないは現代にも通じるが。2019/12/02
じいじ
98
50作目の藤沢小説だが、読むほどに人間の温かさ、人肌のぬくもりを感じて、ますます彼の小説が好きになっていきます。さて今作、初期の中編5作品を収載。氏があとがきで、「5篇どれもが暗さが基調になっている」と述べているが、藤沢さんらしい謙遜で、とても読み応えがあって味わい深い一冊です。【又蔵の火】は、脱藩して殺された兄貴の恨みを晴らす、仇討ちの決闘シーンが迫力があります。私は26歳で江戸でひと肌あげる【帰郷】の主人公の男が好きです。一途な気性で弔いの異名をもつ、喧嘩好きな一匹狼の物語です。 2021/09/04
ふじさん
84
どの作品にも否定しきれない切ない暗さが色調になっている作品集。表題作「又蔵の火」は、叔父と甥として繋がる二人の相打つ壮絶無残の果し合いを抑制された静かなタッチで描いた感動の1作。「帰郷」の宇之吉、「賽子無宿」の喜之助、「割れた月」の鶴吉、「恐喝」の竹二郎は紛れもなく負の主人公でみんなやくざ、でも彼らの生き様には強い共感を抱く。暗い情念に溢れた小説ではあるが、何か言葉では言い表せない熱いものが感じられる主人公に心惹かれる。初期の秀作だが、楽しませて貰った。 2024/08/18
ふじさん
79
「帰郷」を仲代達也、常盤貴子でドラマ化されたのを見た後で読み返した。ドラマは原作に忠実に描かれており楽しく見た。又蔵の火は、藤沢周平の二冊目の作品集で色調は暗いが好きな作品の一つだ。やくざを主人公にした作品だが、何故か彼らに共感を抱くことが出来た。特に好きな「帰郷」は、訳あって女房を置き去りし、故郷を出たやくざの宇之吉が病身の身体おして帰郷し、初めて存在を知った自分の娘のためにひと肌脱ぐという人情噺だ。どの短編も暗いながらも温かい作家の眼差しも感じる秀作だ。 2020/10/30
やも
78
5話の中編集。久しぶりの藤沢周平さん。いやぁやっぱりいい。贅肉のない文章は読んでて惚れ惚れしちゃう。「女がだらしなく五寸ほど閉め残して行った襖を、立って行って閉めなおすと、…」とか、これだけで2人の性格が見えてくるもんね。主人公だけじゃない、モブの使い方もグッと来るんだよね〜【又蔵の火】なんて、ハツがいるからこその、この余韻だもんね。藤沢さんはどうしようもない碌でなしを書くのが上手い。ドヤさ!な決め台詞がないのがかっこいいんだよね〜。★42022/08/30
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- 和書
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