出版社内容情報
巣をとり払われた玄鳥のごとく、二度と帰らぬ男を想う路。武家社会の羈絆に縛られつつも鮮烈に生きていく人間像を描く清冽の五篇
内容説明
無外流の剣士として高名だった亡父から秘伝を受けついだ路は、上意討ちに失敗して周囲から「役立たず」と嘲笑され、左遷された曾根兵六にその秘伝を教えようとする。武家の娘の淡い恋心をかえらぬ燕に託して描いた表題作をはじめ、身の不運をかこつ下級武士の心を見事にとらえた「浦島」など珠玉の五篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
120
仲違いした上役と刃傷沙汰に及び脱藩逃亡した藩士を追った討手は上意討ちに失敗した。一人は死に、一人は手傷を負った。無傷のまま戻った兵六はひとり汚名を被ることに。何の落ち度もない彼は生き残ったが故に主を失った遺族のやり場のない怒りが向かい藩が動く。非情なる判断が下されたが。一度巣を取り払っても戻ってくる燕のようにどうか戻って来てと願う女性がいる。そして彼に生き抜くすべを託す。武家の非情なる仕来りに心が痛むが、女が男を思う気持のような友情のようなそして正しい感情が心に心地よく余韻として残ります。どれも珠玉です。2021/08/11
ふじさん
107
「玄鳥」の剣の腕は立つが粗忽者の兵六は絶体絶命のピンチに秘伝の伝授を受けて困難に立ち向かう。「三月の鮠」の信次郎は、自棄の念から立ち直り非道を行った岩上一族に一矢報いる。「闇討ち」は、隠居した親友の一人が罠にはまり、命を落とした友の仇討ちをする。「鷦鷯」は、貧乏だが誇りが高く、古風な新左衛門と金貸の倅のとの関り等をユーモアあふれるタッチで描いた作品。「浦島」は、酒が招いた不祥事で禄を削られた呑み助孫六のドタバタ余話。どれも、身の不運をかこった下級武士の心のありようを描いた作品。なかなか読ませtる。 2023/10/11
じいじ
106
五編とも味わい深い武家モノの短篇集。私は藤沢氏の艶っぽい場面の描写が好きだ。男女の情緒を恥じらうように藤沢流のオブラートに包んだ、控えめの文体がいいのだ。思わず気持ちがほころんでしまう。表題作【玄鳥】での妻・路の淑やかさ、やさしさには心が洗われる。意中の人とは一緒になれない苦しみは武家に生まれた宿命なのか? 路の切ない心情の描写が美しく見事。路の心のうちを帰らぬ燕に託した哀感をそそる物語、藤沢氏の秀作だろう。2017/01/24
yoshida
91
藤沢周平の武家物の短編を5編収録。どの短編も読後感が暖かい。「三月の鮠」で、信次郎が立ち直り岩上を破り、葉津との将来への予感が清らかで好ましい。「闇討ち」での加弥の強さ。同じ道場の三羽烏と呼ばれた興津達の、変わらぬ絆と強さ。「みそさざい」での孫四郎の軽妙さと強さ。珠玉の短編。安定の面白さ。そして四季の風景と、料理の描写も魅力的。2015/03/24
ヴェネツィア
86
表題作以下5つの作品からなる短編集。いずれも下級武士を描いたものだが、封建制下にあって固定した身分の中で生きる感覚が鮮やかにとらえられている。風景や季節感も作品にふくらみと品位とを与えているようだ。2012/04/21