内容説明
姥坂市で起きた連続殺人事件。犯人の狙いはどうやら、町に住む文化人を皆殺しにすることらしい。「次に殺されるのは俺だ」、作家の村田勘市は次第に半狂乱に追いつめられていく。一体犯人は何者なのか?謎解きのサスペンスに加え、「恐怖とは何か?」という人間心理の奥底にせまる異色傑作ミステリー。
著者等紹介
筒井康隆[ツツイヤスタカ]
1934年9月24日大阪府生れ。57年同志社大学文学部卒業。60年SF同人誌「NULL」を発行、処女作「お助け」が江戸川乱歩に認められデビュー。81年「虚人たち」で泉鏡花文学賞、87年「夢の木坂分岐点」で谷崎潤一郎賞、2000年「わたしのグランパ」で読売文学賞などを受賞。「この世にありえない虚構」を描く独創的、実験的な作品で常に日本文学をリードし刺激し続けてきた。93年教科書に採用された作品が抗議を受けたことをきっかけに断筆宣言、96年から執筆再開。また97年には俳優として本格デビュー、テレビ、映画、舞台などで活躍中
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感想・レビュー
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いたろう
56
筒井御大の2001年の作。90年代半ばの断筆宣言以前の脂が乗っていた時期を前期・中期、その後の執筆再開から現在に至るまでを後期とするならば、本作は後期に入ってからの作品。前・中期の作品はよく読んでいたが、後期の作品はあまり熱心に読んでおらず、本作も未読と思っていたら、全然忘れていたが再読だったよう。文化人連続殺人事件に、次は自分の番ではないかと恐怖におののく中年作家の村田を巡る騒動だが、そのドタバタ振りも、言葉遊び的な言語感覚も、かつての勢いはなく、謎解きミステリとしても中途半端感は否めない、残念な作品。2021/10/30
ジンベエ親分
42
ある町で文化人を狙った連続殺人事件が起き、小説家である主人公が「次は自分か」と恐怖におののく話。主人公が犯人は誰か推理(というより妄想か笑)する思考は、まるきりメタ・ミステリーでもあり、筒井康隆流のおちょくりが炸裂していて面白い。また主人公が感じる「恐怖」の描写も、基本的にはおちょくり倒しているのだけど、喋る人形や脳障害の刑事との会話が狂ってて怖い。意外にもミステリーとしてもちゃんとしていて、事件はきちんと解決するし、そのトリックも拍子抜けするほどまとも。著者におちょくられていたような読後感(笑)2018/03/27
ジャムうどん@アカウント移動してごはんになります
42
殺人事件が起こり、また起こり・・・とはいえミステリとは言い切れない一作。(良い意味で)主人公の精神のねじが緩んでいく様、この描写がお見事。滑稽なようで、どこかとてもなく恐ろしいお話です。途中で主人公が狂って笑い出したときは、鳥肌が立ちました。この話からは、殺人犯に狙われる「恐怖」もかなり伝わって来ますが正直主人公の狂い方が「恐怖」です。ここまで感想を読み返すと、めちゃくちゃ怖そうですが、実際は筒井さんらしくコミカルで素早い展開で面白かったです。2015/06/29
メタボン
34
☆☆☆★ 警官との会話や美都ちゃん人形とのやりとりに、筒井康隆らしいエッセンスは感じられるものの、ミステリーとしては結末があっけなく、物足りない読後感。これは「恐怖」というよりも、次第に追い詰められていく「狂気」を描いたものだと自分を納得させた。そしてまた「狂気」を描くのは筒井康隆の真骨頂でもある。2022/12/27
田中
25
「恐怖」といっても著者が筒井なのでスラップスティックである。真剣なんだけど情けなくて、恐怖と滑稽さが紙一重なのだ。主人公の村田も謎の犯人から標的にされている。自分がいつ襲われるかという心理的本能を事細かく調べて表現に収斂する。「驚愕」「戦慄」「仰天」の三語だった。それが判ったところで益がないのが愉快だ。村田は犯人を探索するのにアガサ・クリスティの小説から謎解きを図る。推理小説家は、一番関係なさそうな思いがけぬ人物を犯人とし、後付けで理由を構想するらしい。この小説も同じ構造にわざと似せたのが筒井さんらしい。2023/12/29