出版社内容情報
少年期から青年期へのみずみずしい目がとらえた東京の下町・日暮里の情景を、さまざまな思い出とともにふり返った味わい深い21篇
内容説明
昭和前期の下町、なつかしい情景。江戸期から明治・大正をへてきたさまざまな風俗・習慣、身ぢかな風物、暮しの中のいろんな品々は昭和三十年代の初めのころまでは色濃く残っていた―。昭和二年生れの著者が、それらすでに遠くすぎ去った過去の印象深い事柄を情感あふれる絶妙の筆致で綴る。好評を博した「東京の下町」姉妹編。
目次
昭和の下町(物干台、そして冬;焼跡での情景;帽子と履物;電灯とリヤカー;黒磯駅の駅長 ほか)
昭和歳時記(桜;蛙;パナマ帽;虱;金魚 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
86
この本と同時に半藤一利さんの本を読んでいたので、やっぱり昭和の戦争に突入する前や戦後はみんな同じような体験をしていたことを改めて知る。日本は負けることは絶対にないと信じていたがあっけなく敗戦、アメリカに占領され今や、アメリカ様の言うことは絶対だもの。歳時記というだけあって吉村昭さんらしい描写も楽しめる一冊だった。2025/03/10
mondo
44
吉村昭は、著書のあとがきで「エッセイは人間を書くことに尽きると私は思っているが、私はこれらのエッセイで昭和という時代に生きた人々を書きつづったつもりである」と結んでいる。私も昭和を生きた、と言っても高度経済成長期に入ってからなので、昭和初期の混沌とし、戦争が忍び寄る気配や、大戦により生活が破壊され、多くの人が亡くなる様をこの目で見ることは幸いにしてなかったが、この昭和初期の時代を人々はどのようにして生き、厳しさの中にあって庶民は幸福感を感じ、懸命になって今日の社会を築いてきたのかを知る貴重な一冊だと思う。2023/07/13
nnpusnsn1945
44
昭和の世相が伺える。226事件の「親は泣いているぞ」が流行したようだ。説教強盗、サクラ(花の方も商売の方と取り上げていた)、ラジオ番組等、戦前もそれなりに生活が営まれていたようだ。もっとも、著者は過去を下手に美化する事について批判している。炭火は色々と手間がかかり、一酸化炭素中毒のリスクが高いとのこと。世の中様々な時代に合わない事柄を改善して今があるのだろう。ひょっとしたら、現在も年を経るにつれてノスタルジアの対象になるのかもしれない。2021/07/09
ワッピー
36
昨年末に千石の旬菜バル九条で行なわれた古本市で邂逅。自分もその端っこにいた昭和という時代の初~中旬ごろの生活誌。自分が生まれるより遙か前とはいえ、どこかつながって、懐かしいという感覚を楽しみました。肺病を病んで山奥の温泉に湯治に出たものの、着くや母の訃報を受けてとんぼ返りした話も殺人的な乗車率の汽車で往復したことを考えると命がけ。どんなに昏い時代でも人々の生活は続くこと、そこには苦労とともにささやかな喜びもまたあったことに胸が熱くなりました。また「日暮らしの岡」「海の祭礼」の2冊を知れたことも収穫でした。2023/01/11
James Hayashi
29
著者の若き頃の思い出を書き出した随筆。昭和、戦後を感じ、幼少の頃の記憶を丹念に描き出している。やはり母を亡くした時の感情が一番心に響いた。2020/10/22