出版社内容情報
その帽子をかぶってドライブしたい──癌で死期の迫った妻の最後の希望で二人は街に出た。人生の底深い何物かを捉えた九つの佳品
内容説明
約束してよ。死ぬ前にこの帽子をかぶってドライブすること…。癌で死をまぢかにした妻が、床の中で夫に買ってきて貰った帽子の幅広いツバを細い指で撫でながらいった。そして、二人がドライブする日は。日常生活に潜む不意の出来事に材を取り、人情の機微を捉えた九つの短篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mondo
33
吉村昭が残した書名は131冊を数え、再版している書名がほとんどですが、なかなか手に入りにくいものも多く、古書に頼ることもあります。この「帽子」という短編集もたまたま古書で手に入れました。全9篇が収められています。いずれも、フィクションで吉村昭が無から生み出した作品です。「あとがき」に「この短編集に収められたものを読み返してみると、一篇ごとに書いた折の苦しみがよみがえってくる」と胸の内を明かしていますが、どの作品も日常生活に潜む不意の出来事を材にして短編の名手が人情の機微を上手く紡いでいて、余韻が残ります。2022/10/16
五十嵐実
1
帽子、買い物籠、牛乳、踏切、朝食、歩道橋、奇妙な旅、雪の日、黒いリボン、以上の9編 全て創作した作品とのことだが実際にあり得そうでもある 牛乳は題を決めてから作品を紡いだとのこと 何回読んでも色褪せないのは吉村昭の魅力2022/03/11
Anna Shibata
1
この小説が書かれた当時は、「浮気は男の甲斐性」という言葉と「女の不貞」という言葉が、息をするように当たり前だったのだろう。作者は、ちょっと困った人だなくらいのノリで、若い女と遊びで関係する男達を描いているし、羨ましがる節さえある。逆に、不倫する妻や放蕩な女の子は理解出来ない愚かしい生き物として描いている。それが普通だった時代があったんだ、と若者の私としては驚いた。そりゃ、世のオジサマ達が昨今の男女平等に抵抗を示すわけだわ。この時代を生きていたら、今の世はギャップありすぎるだろう。2017/12/14
eri
1
自宅にあった誰かの本。普段読まないテーマであった。短編集だが、こういう感じの男と女の話はあまり好みではないなあ…それぞれのシチュエーションは実際にありそうなものばかりだった。ある程度歳を重ねてから読むとまた違った面白さがあるのかも。2012/04/23
ウメ
1
吉村作品で、こういった家族小説、夫婦の姿を題材に選ぶとは意外な感じがする。ただ、感情をあらわにせず、硬質な文体から心情を読ませるのはさすがだと思う。2012/03/24