出版社内容情報
人間四十をこえますと、仕事はただただ忙しく、女房ひたすら小うるさく、子供はますます生意気ざかり。これでは家出の一つも……十月よりTV放映のユーモア長篇
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タツ フカガワ
50
東京の西の端に、家出した夫たちが集まる“亭主の館”がある。至れり尽くせりのサービスに二食付きで一泊たったの千円。そこに鯉沼彦九42歳がやって来る。彦九は一流ホテルで宴会・結婚式の予約を担当している二児の父親。この中年男のときに滑稽、ときに哀愁漂う日常を14話の連作で綴る本作は、これまで読んできた記録文学とも、初期の一種幻想的な小説とも異なる味わいで、吉村作品にこんなくだけた小説もあったのかという、うれしい驚きの一冊でした。家出した彦九の結末、これが吉村さんらしからぬ(?)清々しさで、いやあ面白かった。2022/06/16
mondo
39
吉村昭の小説は随分と読んできたが、こうした小説は初めてお目にかかる。主人公の鯉沼彦九は都内有名ホテルの契約課長、42歳。妻と二人の子ども4人で暮らす、平凡なサラリーマンの日常を描く喜劇。この小説の初出は1976年と書かれているので、高度経済成長期を過ぎた頃の時期で、バリバリと仕事に打ち込んでいたサラリーマンが中年を迎え、男としての、夫として、父親としての自分に向き合うドラマになっている。最後にはハッピーエンドで終わるという演出で、吉村昭ファンを欺く仕立てになっている。また、新たな吉村昭ワールドに出会えた。2022/11/03
駄目男
19
その昔。まだ20代だった頃の私は本当によく司馬遼太郎さんの作品にお世話になっていた。司馬さんを支柱にどんどん幅を広げ歴史文学や評伝、自伝など読むようになったが、誰か私を夢中にさせてくれる歴史作家はいないものかと探していたところ、巡り合ったのが他ならぬ吉村昭さんだった。大河ドラマ的、司馬さんの大スケールとは違った、あまり知られていないような歴史的事件や人物を取り上げ、パズルのように知らなかった歴史の闇を埋めていくようで大変役立ったわけだが、今回、積読で積んであった吉村さんの作品は、2022/10/30
めりこ
4
あたしは女だし、世代的にも分からないけど、会社のおじさんの話を聞いていると、この本で書かれているような、所在なさと、理想郷への夢、浮気への憧れはある程度広くおじさんに共通のものなのかも知れないと思う。少し若い世代では分からないけど。まぁ感想はそれくらいかな。ありそーっ!てくらい。サクサク読めてまぁ面白いけど、それ以上どうってことないかな。2019/11/28
みちかなもに
4
40代で妻子を捨て理想郷を求めてタヒチに渡った画家、ゴーギャンを思い出した。中年の危機とかゴーギャンコンプレックスはこの年代の男性には多い。実年齢と、自分はまだ若い、いうギャップから悩み、もうひと花咲かせたい、と思っている。女性はしっかり家に根をおろしていて、亭主の世帯主とは名ばかりになって家の中にも居場所がない。男の心を家庭に繋ぎとめておくには、胃袋を満たすことがなにより重要らしい。2013/03/09