内容説明
満洲に渡り酒造会社を大成功させた森田勇太郎。彼はいま、収容所の中で死に瀕していた。つかの間の妻子との再会。しかし非情な運命は、家族を永遠に引き裂く。一方で、氷室は変わり果てた姿で波子の前に現れる…。「日本人にとって満洲とは何であったのか」を問う渾身の名作。巻末に半藤一利氏との対談を収録。
著者等紹介
なかにし礼[ナカニシレイ]
1938年、旧満洲牡丹江に生れる。立教大学文学部フランス文学科を卒業。在学中よりシャンソンの訳詞を手がけ、卒業と同時に作詞家としてデビュー。日本レコード大賞、ゴールデンアロー賞音楽賞などを受賞した。ベートーヴェンの「第九」の訳詞、オラトリオ「ヤマトタケル」作詞・演出などクラシック分野でも活躍。また作家としても、著書に「兄弟」「夜盗」「さくら伝説」、訳書に「ラディゲ詩集」など多数がある。2000年「長崎ぶらぶら節」で第122回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yoshida
128
満州国の成り立ちから栄枯盛衰、そして因果が、なかにし礼さんの実体験と膨大な資料により描かれる。公平のモデルはなかにし礼さん自身なんですね。満州に夢を託し、栄華を誇った人々が亡くなってゆく。関東軍の大杉少将は居留民を逃がす時間を作るため、機械化されたソ連軍と肉弾戦を戦い散る。勇太郎も強制労働の末に衰弱して亡くなる。氷室と勇太郎、そして波子達のの奇跡的な再会。鎮痛剤とした阿片を使用した氷室は、阿片の虜になる。暴かれる満州国と阿片。何とか引き揚げる波子達。満州国の栄枯盛衰を知り、その功罪を考えさせられた。傑作。2017/07/29
みつき
36
「男はロマンを追い、女は愛に生きる」上巻で描かれた母である強い女性とはある意味対極にある下巻。戦争という異常な状況下で顕著に表れる男の脆さと女の強さが非常に簡潔に描かれています。あとがきの作者の対談を読んで、そのほとんどが実話であろう事にはさすがに驚きました。当時はまだ幼い少年だった作者が、母の女としての部分を余計な感情を削ぎ落とし、生々しく描いたこの世界観には脱帽です。2014/01/11
三平
13
激動の満州の地で母として、妻として、何より女として生きようとした波子に怖ささえ感じた。 ここまで普通の人間は自分に正直に生きられない。 でも、この女性をここまでの烈女にしたのも、欲望渦巻く虚実一体の空洞国家「満州」ゆえなのかもしれない。今まで知らなかった満州を知ることができた作品だった。2018/12/17
びぃごろ
11
日本国が巨大なカルト集団のようだ(>_<)引き上げ時に残された子が「大地の子」に繋がるのか(ドラマは観たが本は未読)あまりに近代日本の歴史を知らなすぎる自分である。 現代日本でも国民が旨い事誘導されてるんじゃないか?よく考えろ自分。それにしても波子というのは・・・(~_~;)2013/11/30
ちい
5
昭和20年8月、ソ連の侵攻で脆く崩れ落ちた満州。夫とともに夢を抱いて海を渡り、一から店を築いた女の、苛烈な彷徨と日本帰還までを丹念に追う。「夫との再会」「子供たちを守り抜く」強く心に決めて、なりふり構わず突き進む波子は、人間の醜さが露わだけれど、ある意味、我を通さなければ振るい落とされていく過酷な時代だったのだと思う。著者の体験に基づいた描写だからこそ、人間の愛と生への貪欲さが浮き出る。2015/08/31