内容説明
菓子舗の若後家お歌は雨宿りのひととき、行きずりの浪人に手ごめにされてしまう。自分でも納得がゆかぬお歌だが、男への憎しみは愛しさへと変わってゆく。二人の恋は敵討ちの助太刀に発展し、やがて迎える別れの朝…。江戸に生きる勝気な女の姿が、いまを生きる者たちを魅了する長篇時代小説。
著者等紹介
池波正太郎[イケナミショウタロウ]
大正12(1923)年、東京に生れる。昭和30年、東京都職員を退職し、作家生活に入る。新国劇の舞台で多くの戯曲を発表し、35年、第43回直木賞を「錯乱」によって受賞。52年、第11回吉川英治文学賞を「鬼平犯科帳」その他により受賞する。63年、第36回菊池寛賞受賞。作品に「剣客商売」「その男」「真田太平記」“必殺仕掛人”シリーズなど多数。平成2年5月3日没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
269
【読メエロ部】私にとっての時代小説の原点、池波正太郎先生。へぇ、女性主人公か。物語は、いきなり主人公・お歌が、素浪人風の源吾に手ごめ(なんて甘美な響き♡)にされちゃうところから始まる。いつしかそれが恋に変わり、その恋が、親の敵討ちの助太刀にも加担して...。ふたりのむつみあいが超エロくて、心がザワつきました(笑)池波先生、こんなのもお書きになってたんですね。先生独特の「読点&ひらがな文学」堪能しました。2017/09/16
優希
93
赤裸々な女性の心に魅了されました。強かで逞しく江戸を生きるお歌の姿が、男性とは思えない情念で描かれています。行きずりの男に手込めにされたことで男性を憎んでいたお歌の想いが愛情へと変化していく様子に惹かれました。根底では男性に都合のいい物語になっている感もありますが、恋と別れの物語にはじんわり来てしまいます。身ごもった子と輝かしい未来を紡ぐのが伺えるような爽やかな読後感がありました。2016/02/11
じいじ
86
池波作品は3作目ですが、小説は初読みです。藤沢周平の時代小説とは、またひと味違う趣で面白かった。主人公は、三年前に夫に先立たれた女お歌、彼女の生き様が清清しくて小気味よいので、少しばかり惚れてしまいます。行きずりの素浪人に段々と魅かれていくお歌が、何とも愛おしくなります。温かさと親しみやすさを肌で感じた池波小説、もう2・3作読んでみようと『夜明けの星』『秘密』を積みました。2021/09/18
baba
38
池波氏が珍しく女性目線で語っている。夫が亡くなった婚家と実家とに挟まれ、義弟との軋轢などを背負って逞しく生きるお歌が不思議な男と出合い、不思議な成り行きに。上手くいきすぎる所もあるが、中氏の挿画の様に強くたおやかなお歌がどんな境遇も潔く受け入れる頼りになる女性が頼もしい。それにしても馬杉源吾は何者?2016/05/16
タツ フカガワ
27
菓子舗笹屋の若後家お歌が、雨宿りで入った小屋で浪人者に手ごめにされる。これが後のお歌の人生を大きく変えることに。「~はてさて、女という生きものは奇妙なものだ」とはお歌の兄の言葉だが、そんな彼女の懸命な生きようが池波節で語られるとページを捲る手が止まらない(池波作品には珍しく、時おりコミカルな描写も)。カバー画は本編最後の情景ですね。2020/01/21