内容説明
無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壷。売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまでに壷が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、四十五年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。
著者等紹介
有吉佐和子[アリヨシサワコ]
昭和6(1931)年、和歌山生まれ。昭和31年に『地唄』で文壇デビュー。紀州を舞台にした『紀ノ川』『有田川』『日高川』三部作、世界初の全身麻酔手術を成功させた医者の嫁姑問題を描く『華岡青洲の妻』(女流文学賞)、老人介護問題に先鞭をつけ当時の流行語にもなった『恍惚の人』、公害問題を取り上げた『複合汚染』など意欲作を次々に発表し人気作家の地位を確固たるものにする。多彩かつ骨太、エンターテインメント性の高い傑作の数々を生み出した。昭和59年8月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
628
全13話からなる連作短篇集。第1話から最後まで連関性を持ち、全体として円環を結ぶ構成をとっている。同時に各話の独立性も保たれつつ、表題の青い壺が物語の核として機能するという構造である。ただし、この壺は作者、庄造の畢生の作品なのだが、その扱われ方は各話さまざまである。どの短篇もなかなかによくできており面白いし、有吉佐和子の文体もまた古さも感じさせない。この作品群の一番の妙味は、やはり人物像の造型の確かさにあるだろう。さすがにヴェテランの練達の業を感じさせるのである。私は第9話が面白かったが、他もほぼ同等。2024/07/01
Kotaro Nagai
267
有吉佐和子の長編は扱うテーマの重さゆえ手を出せないでいましたが、これは昭和51年文藝春秋1月号から52年2月号まで連載された連作短編集。著者40歳の作品。陶芸家の牧田が焼き上げた青磁の壺が狂言回しに次から次へと所有者が変わっていき、その所有者に関わる人間模様が描かれる。過去を懐かしむ老女の独白(第7話)は印象的な作品。2倍程度のボリュームで70歳を超えた老女たちの同級会を描く第9話も生き生き描いてこちらも好編。13編どれも鋭い人間観察が作品に生かされていると感じる。第13話で壺は作者の牧田の前に現れる。2023/11/11
鍵ちゃん
230
無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺。売られ盗まれ、十余年後に作家と再会するまでに壺が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、45年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。青い壺を通しての人間ドラマが少しレトロで上品に人間くさく描かれてよかった。特に第9話が、歳をとってからの心情が面白い。2024/11/12
kakoboo
192
偶然誕生した青い壺が渡っていった人々の人生を描いた13の物語集。時代設定の昔らしさはあれど読者を夢中にさせる文体に古今の区別はない。各々の物語は視点が微妙に違っており飽きさせない構成も魅力的。 有吉さんといえば生き方としての力強さを描いた紀ノ川や恍惚の人のような社会派の印象が強かったがこういった物語を積み重ねるような作品もあると言うことに有吉さんの幅の広さを感じる。個人的な驚きは現在私が駐在している国のことが書かれていること。アンダルシアに憧れてとはいえども40度超えるので夏の訪問はお勧めできませんよ。2024/07/13
ゴルフ72
168
情けない話だが有吉佐和子さんの作品は初めてなんです。青い壺をめぐる様々な人間模様が上手く描かれている。時代がまさに昭和、言葉遣いからそう感じるがこの言葉遣いが良い!日本語が乱れているこの時代、こんな文章を読むとホッとする。ちなみに私は「ヤバい」って言葉が大嫌いである。2024/02/21