出版社内容情報
太平洋戦争で失なった長男を偲んでひそかに綴り、久しく公刊されなかった回想記。上流家庭のたたずまいを彷彿とさせ愛情の一典型を示した感動的なロングセラーだ
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
19
家族、親子の愛情。手紙故の温かみがあり、形としても、心にも残る。和歌の心情描写が印象深く、日本文化の深みを少なからず感じる。戦場で読む父親の論文・・・。手書きはもちろん、活字であっても、『文字』の齎す心理的な意味と安らぎ。出征時の著者から息子への手紙が、(戦死連絡後)1つ1つ息子の生きた道を辿る著者の姿に繋がり、親としての愛情と切なさを感じる。手紙の良さを再認識。2013/12/13
Ted
10
'46執筆/'66初出/'75刊行。今上陛下の教育係だった小泉信三(慶応義塾塾長で自由主義経済学者)の一人息子で、25歳で戦死した信吉についての思い出話。出征してからの家族宛の私信を中心に構成されている。文面から当時の青年らしい純朴な人柄が伝わってくる。70年前の上流家庭に属する日本人のものの見方や日常生活を垣間見ることができる。親に対する言葉遣いや手紙の文体、親戚付き合いの密度など、今とは随分異なると感じた。海軍かつ士官だったため、食糧面で相当恵まれている。何はともあれ、親より先に逝くのが一番の親不孝。2012/03/17
鈴木貴博
9
慶應義塾塾長の小泉信三氏が戦死した息子を偲び、出征後受け取った手紙を収めるとともにその生い立ちから戦死の一年後までを綴った手記。当初私家版として関係者に配付されたものだったが、小泉氏の死後公刊された。父の静かでありつつ愛情溢れる筆致に流れる深い悲しみ。読後も余韻をかみしめる。2019/06/19
大島ちかり
8
決して若い命が失われることが珍しいことではなかった戦争だが、楽しいことも美味しいことも家族に会うこともあった。戦争の怖さ辛さ悲惨さは、読まれること想定して書かれていなかったのかもしれないが、静かに死を受け入れているのが、かえって物悲しくしんみりする。2020/12/22
Yasuhiko Ito
8
本書は元々、慶應義塾塾長の小泉信三氏が、一人息子の出征から戦死の経緯を私家版として親類縁者や友人に配布したもの。感想は2つあり、ひとつは当時の上流階級の子弟が経験する戦争、特に海軍の場合、艦船の中の生活も豊かで、すべてに紳士的で、陸軍の悲惨な内務班生活とは世界が違うことに驚く。そして、銃後の家族との頻繁な手紙のやり取りや、父親の詳細な日記類を元に、出征から戦死までの物語が小説のような迫力をもって再現されていることにあらためて驚く。電話とSNSで短文のやり取りをする我々、後世にいったい何を残せるのだろうか?2018/10/02