出版社内容情報
終戦直前、突如隆起をはじめ、凶事の前兆かと住民を恐怖させた昭和新山に限りない愛情をそそいだ男の半生を描く表題作ほか「氷葬」「まぼろしの白熊」など、五篇収録
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さっと
10
作品集。表題作は戦争末期~戦後にかけて誕生した「昭和新山」のドキュメント。主人公は地元の郵便局長で、噴火情報が秘匿される戦中にあっても地道に観測記録を残し、戦後は一帯の土地を購入して私有地として保全に努めた三松正夫がモデル。終戦の日にも汽車は走っていたという宮脇俊三と同じく、戦争とは別軸ながら並行している自然の営みとそこに向き合う人々の姿が印象深い。「月下美人」も戦前・戦後(返還前)の時間の流れで描かれる沖縄が印象的。「氷葬」は南極モノ。越冬隊員の性という極地のマジメな話題で笑うに笑えない顛末。2022/01/23
あかつや
5
短編6編。「昭和新山」はそのものずばり山が生まれる話。名前だけは知っていて、場所さえもいまいちはっきりしてなかったけど、山ってああやってできるんだなあ。ダイナミックだ。次の「氷葬」、これが一番好きかな。昭和の都市伝説としてよくギャグのネタとかに使われた、いわゆる南極1号についての話。南極観測隊は越冬時に狭い観測所に閉じこもることになる。そうなってくると男ばかり、ストレスのはけ口もなくやべえんじゃねえかってことで、「保温洗滌式人体模型」が作られた。でもあまりに出来が悪くって、誰にも使われないのかわいそう。2019/09/20
boya
3
大著の多い新田先生にはめずらしい短編集。必死の使命感をもって昭和新山の誕生を記録した三松正夫氏をモデルに描いた表題作のほか、怪談風の『雪呼び地蔵』、ユーモア性ある題材(『氷葬』は所謂「南極1号」の話。)や、めずらしく恋愛風味の話もある(『月下美人』『日向灘』)。 読み終えた後、昭和新山を実際に訪れた。洞爺湖と合わせ、いまや定番の観光スポットとなったが、これも三松氏の誠実な決断あっての大きな成果である。また、それを一流の記録小説として遺してくれた新田先生にも感謝。2016/05/07
kimoiue
1
南極1号は笑いながら読んだけど、月下美人と日向灘は辛かったなぁ。 危篤の時に貰った名刺に電話をかけていたら結末は違ったのだろうか。 前に読んだ本があまりにも低俗だったので、余計に胸に沁みたわ。2022/07/03
まきまき
1
昭和19年から終戦にかけて隆起・爆発した北海道の火山、昭和新山。その様子を克明に記録し、私財をなげうって保護に努めた郵便局員の物語。現代の自分は、昭和新山の観察というのはそれだけで考えていたが、戦局と絡めて語られるのが新鮮だった。当然そういう時代だったなあと思わされた。 他に、この作者らしい登山の話、仲良しパーティーが意地の張り合いから遭難に至る「雪呼び地蔵」や、宮崎の海岸を舞台に哀しい顛末を描いた「日向灘」など。2016/06/19