内容説明
材木問屋の若旦那、栄次郎は、絵草紙の作者になりたいと死ぬほど願うあまり、自ら勘当や手鎖の刑を受け、果ては作りごとの心中を企むが…。ばかばかしいことに命を賭け、茶番によって真実に迫ろうとする、戯作者の業を描いて、ユーモラスな中に凄みの漂う直木賞受賞作。表題作のほか「江戸の夕立ち」を収録。
著者等紹介
井上ひさし[イノウエヒサシ]
昭和9年(1934)、山形県生まれ。上智大学外国語学部フランス語科卒。浅草フランス座文芸部兼進行係などを経て、戯曲「日本人のへそ」、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」などを手がける。47年「手鎖心中」で直木賞受賞、54年「しみじみ日本・乃木大将」「小林一茶」で紀伊國屋演劇賞、翌年読売文学賞戯曲賞を受賞。56年「吉里吉里人」で日本SF大賞、翌年読売文学賞小説賞を受賞。平成11年、菊池寛賞受賞。平成16年、文化功労者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
220
「手鎖心中」は、第67回(1972年上期)直木賞受賞作。解説の勘三郎さんも指摘しているが、山東京伝の黄表紙『江戸生艶気樺焼』を原典に書かれている。井上ひさしが戯作にもっとも親和性を抱いていた頃の作品だ。本篇も、もちろん徹底した戯作調で書かれている。登場人物同士の会話の呼吸が実に巧み。エンディングの戯作者揃い踏みは、読んでいる方もゾクゾクと武者震いに襲われる。こんな世の中でも、未来は明るいような気がしてくるのは、まさに井上ひさしの真骨頂。併録の「江戸の夕立」は、さりげない表現の中に東北の哀しみを忍ばせる。2015/03/07
遥かなる想い
190
第67回(1972年)直木賞。 絵草紙の作者を夢見る 栄次郎を軸に 江戸の戯作者たちの 風景を 軽快な 筆致で描く。 道楽息子 栄次郎と それに群がる ノー天気な男たち…最後のオチも軽妙で、 風刺満載の作品だった。2018/07/28
kaizen@名古屋de朝活読書会
177
【直木賞】江戸の絵草紙作家の卵達。作中作品「百々謎化物名鑑(ももなぞばけものめいかん)」、桃太郎が十二人の妖怪変化に出くわし、謎々で家来にして、鬼退治をする。これ、作品として読みたいと思った。まだ出ていないのだろうか。江戸時代を障壁として意識せずに読める江戸物。すごい。2014/02/15
優希
99
面白かったです。軽妙なテンポで語られるのみならず、駄洒落や言葉遊びが心地よいリズムを刻んでいるのがいいですね。落語のような時代劇のような雰囲気を感じました。やりきれないような物語も、明るい物語展開で人の愚かさを笑いとばしてくれるようです。戯作者が書いた作品なので、舞台で見たらどのような雰囲気になるのかと想像させられました。2016/09/29
たま
67
大河ドラマ『べらぼう』が面白く、蔦重関連の本を読むのが楽しみ。『手鎖心中』もあるなあと思っていたところへ、文春が強引な帯(「蔦重に死んでもほめられたい」)を付けて新装版を出版。1972年直木賞、1975年文春文庫。「江戸の夕立ち」と2本立て、両方とも放蕩者の若旦那の気まぐれに取り巻きが振り回される。若旦那の邪気の無さ、辟易しつつも付き合ってしまう取り巻き、ともに面白いが、くどくて読後が苦いのは作者の資質なのか意図的なのか。江戸風俗も良く調べられて詳しいが、力入り過ぎで肩が凝る。色街だもの、もっとお気楽に。2025/04/25