出版社内容情報
傑作「山月記」の原案「人虎伝」は実は当時よく知られた話だった。なぜ「山月記」だけが生き残ったのか? 隠された友情を読み解く。
内容説明
教科書の定番「山月記」を残して夭折した悲劇の天才、中島敦。実は当時、複数の大物作家が同じ説話を元にした作品を発表していた。なぜ無名の作家の「山月記」だけが生き残ったのか。そこに隠された真実とは。
目次
第1章 カメレオンと虎―夭折した作家の「もう一人の自分」
第2章 虎の咆哮―無名のまま死んでゆく無念
第3章 伝説誕生の裏側―虎の親友「袁〓(さん)」の正体
第4章 友情と嫉妬の渦―『山月記』をめぐる文学者たち
第5章 有名だった種本―「人虎伝ブーム」があった
終章 虎は死せず―永遠の「友情」と「悔恨」の文学
著者等紹介
島内景二[シマウチケイジ]
1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部から文学部国文学科に転進。同大学院博士課程修了。『源氏物語の影響史』(笠間書院)で博士号取得。電気通信大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
37
懐かしいな、中島敦。高校時代は『山月記』で読書感想文も書きました。ただし教科書に載っていたのではないです。この本を読んで高校時代の読解がいかに浅いものだったかがわかって愕然となりました。切実な現実になぞらえての、吐露としての命がけの作品だった。33才で無念にも力尽きた作家を思うと、息がつまるようです。再度中島作品を読みたくなりました。2014/03/21
ワッピー
11
作品は知っていても、著者についてはほとんど知らなかったワッピーは、恥ずかしながらこの本で中島敦という作家について知りました。「山月記」の李徴と袁傪との関係が、現実の中島敦と釘本久春との関係に重ねられているところについてはやや単純化しすぎのようにも感じますが、「山月記」の元本である「人虎伝」に材をとったほかの作家の作品もあったこと、他の文学者との交流、そして中島敦の作品が国語の教科書に採用された背景など興味深く読みました。本筋ではありませんが、対談で釘本氏と文学者との対談は非常に面白く感じました。2016/10/25
チロル
10
図書館本。今年の干支、虎🐯にちなんで。『山月記』は中国の古典『人虎伝』に由来している までは、高校時代の国語の授業で習いました。登場人物の李徴(りちょう)が 作者 中島敦 本人で、袁傪(えんさん)が 親友 釘本さん、または 氷山さん だった との見解 様々な背景の解説付きで 本書巻末にある 『山月記』(本文)をより、感慨深く、楽しんで読むことが出来ました(^^) 『人虎伝』の訳本は、中島敦さん以外にも あと3人の方が記されていたなんて。それから、中島敦さん没後に世に出て有名になったとは。2022/04/23
kurayamadasoga
7
中島敦が文学史に名を残したのはコネの力が大きかったという誤解を与えかねない。2010/02/03
Hiroki Nishizumi
6
良かった。中島敦その人となりがよく分かった気がした。真実の母の不在と偽りの母の過剰。寂しさから抜け出れないサガ。釘本久春という存在。などなど、内なる猛獣について考えるのにとても参考になった。最後に山月記そのものを収録しているのも親切。2020/08/03