出版社内容情報
ユダヤをめぐる知られざる歴史と、サルトル、ラカン、レヴィナス等現代思想の枠を分析し、日本人の思想を根本から覆す瞠目の新理論。
内容説明
ノーベル賞受賞者を多数輩出するように、ユダヤ人はどうして知性的なのか。そして「なぜ、ユダヤ人は迫害されるのか」。サルトル、レヴィナスらの思想を検討しながら人類史上の難問に挑む。
目次
第1章 ユダヤ人とは誰のことか?(ユダヤ人を結びつけるもの;ユダヤ人は誰ではないのか?;ユダヤ人は反ユダヤ主義者が「創造」したという定説について)
第2章 日本人とユダヤ人(日猶同祖論;『シオン賢者の議定書』と日本人)
第3章 反ユダヤ主義の生理と病理(善人の陰謀史観;フランス革命と陰謀史観 ほか)
終章 終わらない反ユダヤ主義(「わけのわからない話」;未来学者の描く不思議な未来 ほか)
著者等紹介
内田樹[ウチダタツル]
1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院博士課程(仏文専攻)中退。神戸女学院大学文学部教授。専門は、フランス現代思想、映画論、武道論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
京都と医療と人権の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
201
キリスト教世界の「負の市民」ユダヤ人は、近代に入りトラブルとして処理された。人権思想もユダヤ人の同化→消滅を目ざしたに過ぎない。フーコーの「狂人」とシンクロさせた説明。差別する側の畏れは様々な幻想を生む。陰謀論を信じブルジョワとユダヤ人を同一視した左翼もいれば、自分を彼らと同一視し西洋を見下して霊的威信を回復せんとした日猶同祖論の如き幻想もある。自己定位の遅れ=すでに名指された者として登場してきたユダヤ人は、同時に世界のイノベーションをリードする存在だった。反ユダヤ主義は近代化・都市化への怯えとも重なる。2021/11/11
ヴェネツィア
104
本書は「ユダヤ人とは誰のことか?」という問いかけに始まるが、どのような切り取り方をしたとしても、これに答えられる者はいない。「ユダヤ人は反ユダヤ主義者が作りだしたものである」―これはサルトルによるユダヤ人の定義なのだが、私はこれまでに刊行されたユダヤ人論では、これを最も優れたものと考えてきたが(岩波新書で入手可能)、ここでは内田の師レヴィナス(ユダヤ教徒)をこれに対置させることで、著者は我々読者を新たな地平へ連れていく。「神の不在」こそが「神の遍在」を証するという極めて逆説的な弁神論がその到達点であった。2013/02/26
おさむ
42
第6回小林秀雄賞だけに、ハイブロウで難解です。シェイクスピアの時世から続くユダヤ差別や陰謀論に真っ正面から向き合った力作。日猶同祖論、19世紀末にベストセラーとなったドリュモンの「ユダヤ的フランス」や其れを実践しようとしたモレス侯爵等、初めて知ることも多く、勉強になりました!2016/01/10
ころこ
35
本書は3つのことをいっています。1つ目は「ユダヤ人」が本質主義と対照的なそれぞれの立場によってものの見方が違う構築主義だということです。したがって、著者の立場=「私家版」となっています。2つ目は、この構築主義は「ユダヤ人」を他者にすると、単一民族説「日本人」とは何かという自分に対する問いかけとしてポスト・コロニアルな啓蒙的観点に移行します。しかしこれが行き過ぎると、マイノリティであるユダヤ人自身からなぜ著者がユダヤ論を僭称しているのかというクレームが入る恐れがあります。「私家版」とは、そのエクスキューズと2021/06/28
シッダ@涅槃
35
返す返すも反省しきりなのだが、日猶同祖論から敷衍して「差別問題一般」を語ったような本だとおもっていた。終章にきて、純粋にユダヤ問題について問いと思索を重ねた本だと気づいた。「ユダヤ人は『特別の憎しみ』を受けている」といった一文が印象深い。内田さんはほんと文章うまいと思う。自分では拙いとか語彙が足りないとかいっているが。(おそらく)仏語文献のほとんどは内田氏訳である。2018/04/13