内容説明
藤村新一氏の旧石器遺跡捏造の手口は、科学的にはあまりにお粗末なものだった。だが、考古学の知識が乏しく、講演会で初歩的な質問に立ち往生したほどの彼は、二十数年間も小細工を続けて、輝くばかりの功績を数多く上げている。考古学界やマス・メディアは、なぜかくも容易にだまされ続けて来たのだろうか。本書は彼が関わった遺跡や石器などの科学的検証のプロセスを詳細にたどり、藤村氏の人間的な側面にも触れて、考古学史上最大の汚点とも言われた事件の全容を明らかにする。
目次
1 捏造発覚の発端
2 光芒を放ったその実績
3 メディアはゴッドハンドをどう報じたか
4 大波を受けた学界
5 いかに受け入れられ、暴かれたか
6 それにしてもなぜ気づかなかったのか
7 藤村神話のトリックと崩壊
8 各地で検証が始まった
9 石器検証のスタート
10 捏造事件の原点
11 事件の残したもの
著者等紹介
河合信和[カワイノブカズ]
1947年、千葉県生まれ。71年、北海道大学卒業後、朝日新聞社に入社。現在、同・総合研究本部勤務。科学ジャーナリスト。先史人類学、考古学、民族学に関心を持つ。日本人類学会、考古学研究会などの会員
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てんちゃん
34
2000年に毎日新聞によってスクープされた藤村氏による旧石器捏造事件を皆さん覚えていますか?日本各地で「~原人」ブームを巻き起こした旧石器時代の遺物とされていたものが、自ら事前に埋設した石器だったという捏造事件です。歴史教科書はもとより大学入試にも影響が及んだ日本考古学界最大の事件。その事件の背景から検証までのレポート。とっても面白かった!素人が何年にもわたり雑な捏造を続けられた事情、彼を持ち上げ続けた大学教授やマスメディアたち。考古学的な面ではもちろんのこと社会学的な視点で見ても、とても面白い。2018/04/26
わたなべよしお
16
ほどよくまとまっている。一読の印象では、河合さんは科学ジャーナリストのはずだけど、考古学会の身内感もあるなぁ。人類学方面では、疑問が出ていたことも書いている。本の表現を少し変えると、藤村らの発掘成果では、50万年前の東北地方に、ホモ・サピエンス並みに進化した原人が生活していたということになる。考古学って人類が作った、残したものを調べるのに、人類学に詳しくなくてもOKなんですかね。個人的には、捏造事件がもたらした最大の疑念は、考古学って本当にちゃんとした学問なんだろうか、というものだと思っている。2025/02/09
卯月
6
職場本棚。朝日新聞社の科学ジャーナリストで、記事や書籍で藤村神話を称賛したこともある著者が、反省しつつ経緯をまとめる。本書は捏造発覚までの過程よりも、発覚後、過去の業績が捏造か否かをいかに検証するか、の部分が興味深い。ガジリ、鉄線条痕、石材分析、付着土、火砕流堆積層。(発覚前に指摘した人も少数いたけど)最初からこれくらい批判的に検証してたら、すぐバレたってことだよね。捏造発覚が2000年で、本書は2003年。時期的に、全部の検証は済んでない頃ではないかと思うので、もう少し年数が経った時点での本も読みたい。2021/08/14
謙信公
6
実に腹立たしい!一人の大馬鹿者のために、どれだけ社会が混乱するか。社会の根幹ともいうべき、歴史の冒涜などあり得ない。そして、捏造をする方もする方だが、それを見抜けぬ専門家は、専門家といえるのだろうか?学術界が如何に閉鎖的な世界であるか、よくわかる。どうにかならんか?2015/12/14
A.Sakurai
5
旧石器遺跡捏造事件について、朝日新聞の考古学・人類学担当記者によるまとめ。事件の経緯はともかく、後半の事件を受けての検証作業とその手法を簡潔にまとめている部分が分かりやすい。なぜ見抜けなかったのか?という疑問が多いが、考古学のいわば死角に嵌った為だ。対象が発掘されたモノに集中されるので、モノの型式と発見された層序に検証が集約される。事件では型式が変だったのだが、そもそも捏造案件しか出土していなかったので比べようがなかった。事件を受けて出土物の新しい観測方法や出土状況の記録方法が発達した。2015/09/06