出版社内容情報
なぜ彼の句が現代人の心を揺さぶるのか。何が彼をして泥酔と流転に追いたてたのか。漂泊の俳人の生涯と苦悩を描く異色の山頭火像
内容説明
酒に溺れ、家を捨て、全国を行乞した俳人山頭火。歿後六十年、その句はますます多くの共感を得ている。旅から旅への人生。しかし彼は単なる漂泊の自由人だったのか?否。幼い日に見た父の放蕩、母の自裁、家産の瓦解…。自分をとりまくすべてが滅びゆくとの強迫観念にさいなまれ、出口を求めつづけた神経症者の必死の吐露が彼の句だった。永年山頭火を“心の友”としてきたアジア経済論の第一人者が、その生涯と内面の苦悩に肉迫する。
目次
酒よ
報恩寺
唄さびしき
土に喰ひいる
崩落
この旅、果てもない
放哉の春
執着
おもひおくことはない
ほほけたんぽぽ
おろかな秋ぞ
雲へ歩む
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
S.Mori
12
種田山頭火の内面を克明に描いた一冊です。小説として読むことも可能です。幼い時に母親が自殺したことが、彼の生涯を暗いものにしたことがよく分かります。なかなか仕事もできずアルコールに溺れる情けない人生だったと言えますが、自分の中にある詩魂を捨てようとしなかったことが、胸を打ちます。どんな人間であっても、山頭火のように心の中に虚無感を抱えているような気がします。ただ、彼のように放浪生活を送るのは難しいはずです。山頭火の放浪を支えた友人たちの温かさに頭の下がる思いでした。2019/10/15
Ohe Hiroyuki
1
本書は、アジア開発経済学を専門とする著者が、長年心の友と評する自由律俳句の詩人である山頭火の一生を、神経症を患った者という切り口から、筆者独自の感覚で書ききった一冊である。▼本書では、種田山頭火の自由律俳句を愛でるというよりは、種田山頭火本人の生き様が描かれている。その描きように著者の並々ならぬ気持ちを感じる。▼ある意味で神経症にさいなまれ、酒に溺れるどうしようもない人生である。しかし、種田山頭火の作品は多くの人に慕われ、その人自身もまた少なくない人に支えられる不思議がある。2021/07/27
ジャガラモガラ
1
同じ風来坊でも井月とは正反対の生き方。もし幼い頃に母親との死別がなかったらそこまで不安に苛まれる事も無かっただろう。地獄に生きたからこそ後世に名を残すことになったのだろうが妻や息子も辛かった事だろう2019/04/29
rezare
1
同郷の俳人種田山頭火と、アジア経済を専門とする著者とが、にわかには結び付かず、なぜ?と思ったからこそ手に取った1冊。網代笠に法衣の後ろ姿は、地元では山頭火の句が使われる折りに見かけることがあったが、どんな人生を歩んだ人か、はおろか、作品についても全く知らず、初めて知ったことばかり。渡辺さんの著書でなければまず読んでない!ので、実に貴重な出逢いだった。女としては、妻となった女性が、夫が山頭火であったがゆえに舐めさせられた辛酸を思うと、たまらない苦しさと腹立たしさが残った。2015/10/04
こっき
0
あとがきで紹介されている山頭火の言葉が良い。「…上手に作られた句よりも下手に生まれた句を望みます、…」 ここに現代人をも惹きつける山頭火の魅力があるのではないでしょうか。2013/08/23