出版社内容情報
京都にある味噌製造会社につとめるわたし。ある冬の寒い朝、出勤すると社内のあちこちでささやかされる噂にになつかしい名前を聞く。
「亡くならはってん、黒野田さん」
かつてわたしが心のなかでこっそり「ソリティアおじさん」呼ばわりしていた人が死んだ。
「火事やってんて」
ひょんなことからソリティアおじさんの通夜に参列したわたしは、ずるずると交際の続く恋人、将来の見通しのたたない仕事、それぞれに踏ん切りをつけるためある決断を下す。
軽妙な京都弁で女性の内面を鮮やかに描き、誰にでもある変わらぬ日常におとずれる些細な変化こそが、人生の行き先を変える様を控えめに、けれど確かに物語る胸に染み入る傑作小説。
ソリティアのように無数の選択肢がある人生で、わたしが選んだ次の一手。クリアとなるか、手詰まりか。
【目次】
内容説明
心のなかでこっそり「ソリティアおじさん」呼ばわりしていた人が死んだ。通夜に参列することになったわたしは、その死を通じて自分の人生を見つめなおす。やり直しのきかない現実を前に、わたしは変えることと変えないことを選び取る。よどんだ人生にあたらしい一手をもたらす決断と成長の物語。第175回芥川賞候補作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
189
第175回芥川賞候補作・受賞作第三弾(3/5)、今回も候補作です。ソリティアおじさんを巡る群像劇、面白く読みましたが、本作では、文藝春秋社刊であっても、受賞は難しいと思います。昔、私もソリティアをやりましたが、嵌ったことはありません(笑) https://books.bunshun.jp/ud/book/num/97841639214192026/07/26
buchipanda3
86
「お話ししたことないひと見つけて、目えつけてたんですよ」。何気ない一言にクスッとなったり、ハッとなったり、安堵したり。どこか人の機微を感じさせる会話がリアルだなあと思った。それは語り手の意識の流れをそのまま受け取っているかのように感じたからかもしれない。人は一日中、自分の内と外の言葉に塗れながら迷い続け、考えが手詰まりとなることも。そんな時はソリティアみたいに手札を戻せば良いのか。戻し続けるのか。「人生が行き詰まるのではない、人間の思いが行き詰まるのです」。誰しもの人生は独りのゲーム。読後感の良さが残る。2026/07/14
シナモン
77
味噌製造、販売会社で働く主人公は定年を迎えて今は会社にいない黒野田さん(ソリティアおじさん)の訃報に接し、通夜に出かけるが、風邪をひき、彼氏と別れるーそんなお話。読みやすい。文學界2026/5月号にて読了2026/06/30
かんらんしゃ🎡
43
味噌醸造会社の直売店で売り子の女子社員、何となく男性社員の輪には入りにくい風だ。京都弁のおだやかで軽妙なモノローグに乗せられて読む。定年前は仕事中にソリティアばかりしてたおじさん、火事で死んだ。ソリティア=一人遊び。感情のスイッチを切って心をフラットにしてるんだろな。考えたらこの女子社員も一人。ずっとモノローグだし、彼氏とも付かず離れずだし。生きるってみ~んな一人なん?どっかで何かを切り捨てる事なん?2026/08/11
ヘラジカ
40
語りも設定もテーマも至って平凡。思考にも文章にも文学的な衒いは一切なく、実在する人物の日常をそのままトリミングしたようにナチュラルである。ここまで来ると”ありきたり”を超越している。普通から外れた異質な人々を描きがちな現代純文学のなかでは、むしろ異彩を放っている作品。ちょっと凄い。凡庸な人生、凡庸な出来事、凡庸な悩みと選択を、終始徹底して描いているからこそ、この作品自体は決して凡庸ではないのだと感じた。2026/07/08




