出版社内容情報
第173回芥川賞候補作
英会話教師として日本で就職したブランドンは、アポロ11号の月面着陸計画の記録を教材に、熟年の生徒・カワムラとレッスンを続ける。
やがて、2人のあいだに不思議な交流が生まれていく。
日本に逃げたアメリカ人と、かつてアメリカに憧れた日本人。
2人の人生の軌道<トラジェクトリー>がすれ違う時、何かが起きる――
アメリカ出身の作家が端正な日本語で描く、新世代の「越境文学」
ニューオーリンズにフォークナーと小泉八雲の残影を見る珠玉の短編「汽水」併録
【目次】
トラジェクトリー
汽水
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
石橋陽子
17
英会話教室を舞台に、言語の在り方からそれに付随し自身のアイデンティティを考えていく哲学的な小説。言葉は自分を包み快適な環境を提供し続けている。そして言語が自己をつくる。昔は非日常的な憧れに導かれるまま英語を学んだが 、今はグローバル世界に参加するツールとなっている。言語の壁は、他者との境界を越える困難さを表出している。トラジェクトリーとは軌跡。目的が到達出来ようが出来まいが、それまでに至る人生の軌跡が大切だというメッセージが含まれているのだと思う。アメリカ人だが日本語で執筆を行う著者ならではの視点作品。2025/06/22
イカまりこ
7
文学界で。外国で暮らそうと思ったことがないし海外旅行にも行ったことない私。なかなか自分事として読み込むことができなかった。最近読んだアンソロジーの中に日本人は全員英語を勉強しなきゃいけないって法律ができた話があって、英語ができるのが当たり前の世界への恐怖が重なった。世界の危機の時に日本人って危機感薄い民族なのかなぁ。日本で英語を教えつつ「住んでて楽しいけれど、ただのモラトリウムだよね」と感じる英語教師のセリフをどう受け止めたらいいのか。本人の問題なのか、日本人の問題なのか。カワムラさんの日記は好きだった。2025/07/03
あんづ
0
文學界2025年6月号で。 日本に来て三年の英語教師。淡々と日常を語ります。読みやすく、面白く、一気読みでした。 タイトルが好きです。2025/07/05