出版社内容情報
日本の戦後史をいろどった様々な事件に立ち会った人々の視点を自由自在に乗り換えていく語りが高く評価され、第56回谷崎潤一郎賞に輝いた『日本蒙昧前史』から4年。
パンダ来日、人気俳優同士の不可解な結婚、中東危機によるオイルショック……語りのスタイルはそのままに、著者の筆先は新たな事象にもぐりこんで「あの時代」を描き出していく。
著者みずから「ライフワーク」と公言する、疾走感あふれる叙事的長篇、待望の第二弾。
内容説明
第56回谷崎潤一郎賞受賞の前作から4年、錬熟の語り口はますます冴えわたる。パンダ来日、人気俳優同士の不可解な結婚、中東危機によるオイルショック…。ふたたび、“蒙昧”の時代を描きだす。
著者等紹介
磯〓憲一郎[イソザキケンイチロウ]
1965年生まれ。2007年、『肝心の子供』で文藝賞を受賞しデビュー。『終の住処』で芥川賞、『赤の他人の瓜二つ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、『往古来今』で泉鏡花文学賞、『日本蒙昧前史』で谷崎潤一郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
85
前作に続く物語は、日中国交正常化、パンダ来日、人気俳優同士の不可解な結婚、中東危機とオイルショックが描かれる。登場人物の固有名詞は記載されず、巻末には「この作品はフィクションです」と書かれているが、参考資料に、大平正芳、石坂浩二、浅丘ルリ子、加賀まりこ、ロックフェラーなどの名があるのだから、人物は完全に特定できる。大国(米中)の横暴、メディアの無節操、政治的良心の衰退など、現代の蒙昧に繋がる前史が暴き出されている。前作同様、読点ばかりの独特の文体が、時代のおどろおどろしさを象徴していてクセになりそう。2024/08/11
ヘラジカ
41
やはり一冊では完結しておらず大作の一部という印象は拭えないが、作品自体は文句なしに素晴らしい。前作を上回る滑らかさと推進力のある筆運びに感服。中東戦争やそれに伴うオイルショックといった大きな歴史的イベントも、パンダ来日や芸能人同士の結婚といった俗っぽく些末な出来事にも、中心には人間と言う複雑怪奇な存在があるのだと、当たり前のことに感動すら覚えた。歴史は繰り返すとは陳腐な表現だが、新型コロナやスポーツ選手を巡る報道を思い返し、自分自身今も変わらぬ蒙昧の時代を生きていることを実感する。傑作。2024/06/11
ぽてち
28
前作に続き、現代史の中で実際に起きた出来事を“フィクション”として著したドキュメンターノベル。今回は中国から贈られたパンダのカンカンとランラン、日本中が夢中になったドラマに主演した人気俳優同士の結婚、トイレットペーパーの買い占め騒動を引き起こしたオイルショックが主に取り上げられる。前作同様、話はあちこちに脱線し、関連するあれこれに飛び火していく。そのどれもが面白く興味深いのだが、正に“無知蒙昧の輩”であるぼくには、どこまで信じて良いものやら定かにはわからなかった。2024/06/29
hasegawa noboru
18
時代の表層を彩った、事件ニュースを取り上げ、その細部、周辺を精査博捜し、当該人物については過去に遡って掘り下げつなげていく。もう半世紀になる過去のことだが、ああそういう時代を生きていたのだったと、生きていた私なんかは思わさせられる見事な語り。日中国交回復に臨んで訪中した政府一行の外交交渉の場。その国交回復記念で訪日したパンダ二頭を巡っての国中の狂騒。知的なハンサム男優と美人映画女優の婚約、結婚に至るまでの経過。石坂浩二と浅丘ルリ子だろう。<永田町の政治家も、霞が関の官僚も、日本国内からは石油が消えてなくな2024/06/24
そうたそ
14
★★★★☆ 待望の第二部。前作から引き続き、本作ではパンダ来日や、人気俳優同士の結婚、オイルショックをメインに描きつつも、時に話は脱線し、細かいトピックに触れていく。全く別の出来事がその滑らかな文章によって、繋ぎ目を感じさせず、のらりくらりと語られてゆく。この勢いで、平成、更には令和のコロナ禍まで書いてほしいものだが……。2024/07/06