出版社内容情報
裕福な家に嫁いだ千代と、その家の女中頭の初衣。
「家」から、そして「普通」から逸れてもそれぞれの道を行く。
「千代。お前、山田の茂一郎君のとこへ行くんでいいね」
親が定めた縁談で、製缶工場を営む山田家に嫁ぐことになった十九歳の千代。
実家よりも裕福な山田家には女中が二人おり、若奥様という立場に。
夫とはいまひとつ上手く関係を築けない千代だったが、
元芸者の女中頭、初衣との間には、仲間のような師弟のような絆が芽生える。
やがて戦火によって離れ離れになった二人だったが、
不思議な縁で、ふたたび巡りあうことに……
幸田文、有吉佐和子の流れを汲む、女の生き方を描いた感動作!
内容説明
裕福な家に嫁いだ千代と、女中頭の初衣。「家」から、そして「普通」から逸れてもそれぞれの道を行く。
著者等紹介
嶋津輝[シマズテル]
1969年東京都生まれ。2016年、「姉といもうと」で第九六回オール讀物新人賞を受賞。18年発表の「一等賞」が、日本文藝家協会編『短篇ベストコレクション 現代の小説2019』に収録される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
290
第170回直木賞候補作第六弾(6/6)、直木賞発表前に全候補作完読、コンプリートしました。嶋津 輝、初読です。本書は、大正&昭和の激動の時代を生きた普通(但し、女●器のみ畸形)の女性の半生記、シスターフッド大河小説の佳作でした。直木賞ノミネートは納得ですが、他候補作と比べるとインパクトに欠けるので、文藝春秋社刊ではあるものの、直木賞受賞はないと思います。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163917511 【読メエロ部】2024/01/05
青乃108号
251
戦前の頃。東京。若奥様として迎えられた千代と、女中の初さんとお芳さん、3人の主従の垣根を越えた慈愛に満ちた生活。勿論家には旦那もいるし、若旦那もいるが兎に角男連中は影が薄い。女3人の奮闘する毎日の様子は読んでいて心地良い。そこに迫る戦争の影。お芳さんは実家に疎開、ある日突然の大空襲、千代と初は必死に逃げるが群集にもまれ離れ離れに。千代は声を、初は目をやられてしまう。時は経ち、三味線の先生となった初の女中となる千代。主従逆転しても2人は昔と変わらず、手を携えて戦後を逞しく歩みだす。女の本当の逞しさを見た。2024/06/16
いつでも母さん
195
三村初衣と鈴木千代・・大正末期から昭和を生きた二人の女。「奥様と私」縁あって出会い戦禍にはぐれ、今「お師匠さんと私」生きて再会の悦びを、主従関係と紡ぐ嶋津輝さんの長編小説を読んだ。大河小説だから嫌な奴も居るにはいるのだが、さほど気にならず読み進められるのは二人の性格と程よい関係性に所以しているのだろうなぁ。仕事だと割り切っても肌が合う・合わないはあると思うが、互いが互いを認め合う心地良さがここにはあった。私は満ち足りた気分で読了に至った次第。2024/01/25
fwhd8325
193
「スナック墓場」を書かれた方だったんですね。短篇集でしたが、とてもいい味だったことを思い出しました。今回は長編ですが、これもいいです。昭和が凝縮されているような物語です。良いも悪いもこれが昭和なんだと思います。今の時代とは違う芯の通った強さを感じます。背景は違いますが、4月から始まった朝ドラの伊藤沙莉さんと重なりました。2024/04/05
のぶ
161
清々しくて良い話だった、大正末期から戦後までの、日本の社会が大きく変わった時代を生きた二人の女性。女が自分一人の力で生きていく選択肢なんて、そうたくさんなかった時代の物語。若いうちにいい婚家先を見つけて嫁ぎ、子を産み育て、夫や親に仕え内を守っていくこと。それが当たり前の、普通の女の人生。その「当たり前」や、「普通」から外れてしまったとき、女はどうやって生きていくのだろう、いや、そもそも生きていけるのか、という時代。そんな中、主人公の奥様の千代と女中の初衣の関係がよく描かれていて、読ませる小説だった。2024/02/20