内容説明
里村五郎兵衛は、神宮寺藩江戸藩邸差配役を務めている。陰で“なんでも屋”と揶揄される差配役には、藩邸内の揉め事が大小問わず持ち込まれ、里村は対応に追われる毎日。そんななか、桜見物に行った若君が行方知れずになった、という報せが。すぐさま探索に向かおうとする里村だったが、江戸家老に「むりに見つけずともよい」と謎めいた言葉を投げかけられ…。最注目の時代小説家が描く、静謐にして痛快な物語。
著者等紹介
砂原浩太朗[スナハラコウタロウ]
1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者に。2016年「いのちがけ」で決戦!小説大賞を受賞し、デビュー。21年に刊行した時代小説『高瀬庄左衛門御留書』が山本周五郎賞、直木賞候補となったほか、野村胡堂文学賞、舟橋聖一文学賞、本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞し話題に。翌22年には、『黛家の兄弟』で山本周五郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
217
江戸藩邸が舞台の時代物だが、文字通り何でも屋の総務部が主役の企業ドラマと見ればわかりやすい。家族経営の中堅企業「神宮寺藩」で起こる経営者一族のドタバタや女絡みの騒動を解決するため、総務部長(差配役)が奔走する有様は源氏鶏太のサラリーマン小説を連想させる。最初は社長(藩主)の息子が自由を求めて逃げ出すなどユーモアたっぷりに進むが、やがて社長の庶子を自分の娘として引き取っていたのが明らかになり、次期社長の座を巡る社内実力者の暗闘に巻き込まれる。マジメで職務に忠実な社員が、信じる道を貫いて会社を救う物語なのだ。2023/05/23
KAZOO
175
この作者の2冊目です。最近の時代小説の傾向なのでしょうか?以前の山本周五郎や藤沢周平の様な感じが少なくなってきている気がしました。ある意味今のサラリーマンで言うと中間管理職の立場のような人物が主人公です。ある藩の何でも屋という立場で様々な事件が起きてその解決にあたります。若君がいなくなったり、猫探しを命じられたりしますが、その裏では藩を二分する勢力争いがあり、陰謀めいた動きもあります。楽しませてくれました。続きがあるといいのですが。2023/10/19
hiace9000
165
神宮寺藩江戸藩邸差配役、里村五郎兵衛。陰で"なんでも屋"と揶揄されるも、藩邸内で次から次へと起こる大小の揉め事の火消しに傍目にはさも泰然と対処せねばならぬ心労と悲哀と葛藤そして苦悩ー。時代小説ならではの静謐のなかでさざめく心の揺れと、落ちつきのなかの人知れぬ気持ちの昂りを見事に筆に乗せ描くいつもの作風は正に「待ってました!」の一言。これを味わおうと砂原作を手に取る読者の期待を一寸たりとも外さず。重すぎぬ軽み、巧みに伏せ先読みさせぬ捻り、そして絶妙なる〆。映像化の配役まで目に浮かぶ、痛快なる読み物だった。2023/06/10
いつでも母さん
156
良い読書時間を持てた。砂原さんが好い。“なんでも屋”と揶揄される藩邸差配役・里村五郎兵衛を通して藩邸で起こる厄介事の顛末が面白い。十歳の若君・亀千代のプチ家出に、正室の愛猫捜し、厨の女中をめぐるあれこれ・・それと並行して家老・大久保と留守居役・岩本の争いに巻き込まれる五郎兵衛に悲哀を感じてしまう。藩主との秘話には、こうきたか!の感じ。聡い亀千代や、五郎兵衛の次女・澪のこの先が気になる。「勤めというのは、おしなべて誰かが喜ぶようにできておる」私にも言われているようだった。頑張れ五郎兵衛!とエールを送りたい。2024/05/09
のぶ
142
砂原さんの新作は全五話で構成された連作集。どの話も読みやすく面白かった。主人公は里村五郎兵衛という武士。最初に収録されている「拐し」ではいきなり事件が出来する。ご世子、つまり藩主の長男である亀千代ぎみがお忍びで桜見物のため上野の山に出かけ、そのまま行方不明になってしまったのだった。五郎兵衛の号令で一同が血眼になって若ぎみを捜し回る。これには五郎兵衛の身近な者が関わっていた。緊迫感のある話を最初に持ってくるので、ぐっと物語に引き込まれる。展開が上手く、全編を通し飽きる事のない一冊だった。2023/05/11