出版社内容情報
笠井 潔[カサイ キヨシ]
著・文・その他
内容説明
1978年6月。ナディアは著名な作家のシスモンディに、友人・矢沢駆を紹介する。シスモンディのパートナーであり、戦後フランス思想家の頂点に立つクレールが彼女にあてた手紙が消失した謎を駆に解き明かしてほしいというのだ。しかし手紙をネタに誘い出されたシスモンディとナディアは、セーヌ川に係留中の船で全裸の女性の首なし屍体を発見する。事件の調査のためリヴィエール教授を訪ねると、彼は若き日の友人、イヴォン・デュ・ラブナンのことを語り始める。39年前、イヴォンも首なし屍体事件に遭遇したというのだ―。増殖する不可解な謎を、矢吹駆が解き明かす!
著者等紹介
笠井潔[カサイキヨシ]
1948年、東京都生まれ。79年『バイバイ、エンジェル』でデビューし、同作で角川小説賞を受賞。98年『本格ミステリの現在』(編著)で日本推理作家協会賞受賞。2003年『オイディプス症候群』と『探偵小説論序説』で本格ミステリ大賞小説部門と評論・研究部門を同時受賞。12年にも『探偵小説と叙述トリック』で同賞評論・研究部門を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぐうぐう
28
矢吹駆シリーズ第七作目となる『煉獄の時』は、第一作『バイバイ、エンジェル』と表裏を成す作品であり、第四作『哲学者の密室』の主題をさらに深めた物語でもある。『バイバイ、エンジェル」と同じく首のない屍体が事件の中心に配置されるのだが、ここで矢吹駆が問題視するのは、首は獲られたのか、それとも消えたのか、だ。首なし屍体事件の前段階で矢吹は、クレールとシスモンディ(サルトルとボーヴォワールがモデル)から手紙消失の謎を解いてほしいと依頼を受けていて(このささやかに見える謎は、(つづく)2022/11/25
karatte
27
前作までのキャラを大量投入の上、サルトルとボーヴォワールもぶち込んだ集大成的大作。400字詰原稿用紙換算2200枚と、『哲学者の密室』の2400枚に迫る勢い。Kindle版なので重みはない。今作に至り、ナディア嬢の推理はサイコの域に達してしまった感すらあるが(指を○るとか正気かよ)、例によってムッシュ・ヤブキに前座を押しつけられたと考えると哀れに思えなくもない。過去篇を挟み込む構成など『哲学者の密室』との比較は避けられないが、個人的には本作のほうが面白く読めた。イリイチが完全にチョイ役なのがちと残念。 2023/04/02
PAO
19
「その生成に立ち会うことで人間学的な発見がもたらされるような犯罪現象」…待望の矢吹駆シリーズ。八百頁二段組で内容びっしりですが全く退屈せず駆やナディアの足跡を辿りパリの街を歩いた日々を懐かしく思いながら現象学と犯罪の世界に十分に浸りました。前作までの登場人物や物語を巧みに回収しながら新たな謎を提示する内容もさることながら本書の最大の目的は哲学不在の反知性の世紀を甘受しタイパを信奉する馬鹿な私達への二十世紀知性の挑戦ではないでしょうか?果たして《哲学》は「消失した」のか「奪われた」のかどちらなのでしょうか?2023/01/08
カケル
19
読み終わってしまった!いやー凄かった! シリーズものによくある過去作キャラの再登場と掘り下げが半端ないレベルで展開されてる。後続作にもあの人やあの後日談が出てくるんだぞ! 架空、実在モデル、実在の人物や事象の乱舞にクラクラする。『虚無』の奈々生を思わせる述懐に、シリーズ総体として(『天啓』『悲劇』も含めて)とんでもない事を目論んで居るんじゃないかと慄いてしまう。どうか無事完結しますように🙏2022/10/01
飛鳥栄司@がんサバイバー
17
作中の時間経過と現実世界の時間経過に大きな差があって、びっくりするわ、疲れるわ。でも、作中の時間経過はずれていないので、シリーズ作品がわりと短い期間でかかれているから、ついつい再読したくなる。とくに『バイバイ・エンジェル』と『オイディプス症候群』は読み返しておくと吉。ミステリとしてはスッキリした感じを受けた。解決にいたるまでのナディアと駆の掛け合いは相変わらずで、いいコンビになっていると思う。過去編を読む苦痛を受け入れながら、現代の事件に大きく関与する部分が大きいので、ひたすら読み進めるべし。2022/11/04