出版社内容情報
史上初の直木賞&高校生直木賞をW受賞した『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』から2年。直木賞受賞第一作にして、『渦』の待望の続編がついに刊行。
江戸時代も半ばを過ぎた道頓堀には芝居小屋がひしめき合っていた。
近頃は歌舞伎芝居に押され、往時の勢いはないものの、「道頓堀には、お人形さんがいてこそ、や」
人形浄瑠璃に魅せられ、人形浄瑠璃のために生きた人々の喜怒哀楽と浮き沈み、せわしなくも愛しい人間模様をいきいきと描く群像時代小説。
内容説明
直木賞受賞作『渦』の熱気再び!人形浄瑠璃に魅せられた人々の、せわしなくも愛しい人間模様をいきいきと描く群像時代小説。
著者等紹介
大島真寿美[オオシママスミ]
1962年愛知県生まれ。92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2011年刊行の『ピエタ』は第九回本屋大賞第三位。『あなたの本当の人生は』は14年第一五二回直木賞の候補作に。19年『渦―妹背山婦女庭訓魂結び』で第一六一回直木賞受賞。同作は20年第七回高校生直木賞も受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
348
時は明和。元禄期や化政期には及ばないものの、文化が興隆した江戸中期である。そして、物語の軸になるのが耳鳥斎。絵師にして戯作者。同時に骨董商(元は酒造業)を営んでいたあたりも史実のまま。登場するのは近松半二に徳三、柳、加作など浄瑠璃や歌舞伎作者の面々。十遍舎一九や漁焉と号する時代の上田秋成まで、時代を駆け抜けた文人たちが闊歩する。今流行りの蔦谷重三郎の役どころを務めるのが耳鳥斎。場所は道頓堀と四条という上方の演劇文化のメッカである。軽快な上方詞で進行する物語はスピードに富み、躍動感に溢れる。2025/01/28
いつでも母さん
171
前作『渦』を読んだのはいつだったか・・(汗)半二の熱に煽られた記憶がある。半二亡き後、ゆかりの面々が愛おしく描かれている。松へ、専助、柳、徳蔵そして半二の娘・おきみ・・浄瑠璃に魅入られ歌舞伎芝居に活きるそれぞれの地獄。ぞれぞれの縁。それぞれの糸。人生の波に揉まれ結びの先に、後世まで続く世界が見えた。2021/09/01
trazom
158
「渦」の続編。物語の中心は近松半二の娘・おきみ。半二、菅専助などが操浄瑠璃の灯を守り続けようと苦悩する時代に活躍した実在の人物(耳鳥斎、近松徳三、近松柳、十辺舎一九など)が絶妙に配されている。「伊賀越道中双六」の合作者である近松加作という人物の謎については、岡本綺堂が「近松半二の死」でも取り上げているが、大島さんは、それを上回る大胆な仮説で、実に面白い。それにしても、朝井まかてさん「眩」、澤田瞳子さん「星落ちて、なお」、そして、この小説と、女流作家が、天才芸術家の娘を描くときの想像力の鋭さには畏れ入る。2021/09/20
のぶ
138
「渦 妹背山婦女庭訓魂結び」の続編だが、本作も浄瑠璃の魅力や、当時の活気が伝わって来るようで良かった。松屋平三郎という操浄瑠璃に入れ込んだ人物を主人公のひとりに据え、物語を展開させていった。当時の道頓堀には芝居小屋がひしめき合っていた。やがて近松半二が世を去り、浄瑠璃の演目は後に残された人たちに委ねられることになった。娼家の跡取り息子でありながら浄瑠璃作者になった徳蔵の情熱や、半二の娘のおきみからあふれでる才気が支えていく。日頃、馴染みのない浄瑠璃を、身近に感じさせてくれた興味深い一冊だった。2021/08/18
ちゃちゃ
119
あぁ、このリズム。操浄瑠璃に魅入られた者たちの人間模様が、やわらかな大阪言葉で語られて心地よい。前作『渦』の近松半二の傑作『妹背山婦女庭訓』から繋がる縁が、浄瑠璃の海に“波模様”を描いて広がってゆく。娘のおきみや耳鳥斎、近松徳蔵や近松やなぎ、あの人もこの人も切っても切れへん「縁の糸」で“結”ばれて、浄瑠璃地獄に堕ちはった人なんや。そやけど、その縁はいつしか虚実のあわいに花を咲かせて、至高の芸となる。うちらはそれを観て読んで楽しませてもらうんや。ままならぬ世、そやからこそ人生はおもしろいんやなぁ。2021/10/28