内容説明
疫病はびこる京の惨状に足利幕府の救いの手は届かず―橋を架ける男。籤引き将軍と揶揄された義教は己の命をも運に委ねる―籤を引く男。銭ですべてを買う富子の手から夫と息子は零れ落ちる―銭を遣う女。花の御所、銀閣寺をうんだ室町時代の滅びの始まりを描く六篇。
著者等紹介
奥山景布子[オクヤマキョウコ]
1966年愛知県生まれ。2007年「平家蟹異聞」(『源平六花撰』所収)でオール讀物新人賞受賞。古典への造詣を生かした作風が高く評価され、近年は児童向け歴史小説なども手がける。2018年『葵の残葉』で新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いつでも母さん
164
久しぶりの奥山景布子さん。長い室町時代の中で滅びの始まりを描いた6篇連作。帯に『現世に惑い、極楽を求める妖しくも哀しい人間模様』とあるのがよくわかる。ひと時思いを馳せるも、実は苦手な室町時代だが(汗)3人の女たちの話が好みだった。2020/12/12
とん大西
124
面白かった!著者初読みの「葵の残葉」は途中下車。で、躊躇いながらの今作でしたが、当初の戸惑いどこへやらの一気読みとなりました。-どうしても、というか室町を舞台にすると【混沌】というワードがもれなくついてきちゃいます。その元凶ともいえる6代義教から放たれ続けた百年の無秩序。連作短編で繋いだ6つの混沌はどれもハズレなし。暗褐色の空気とたちこめる生臭さ。巧妙な筆致が往時の都の妖しさ儚さを容赦なく映す。タイトルが皮肉に響くそれぞれの哀愁。籤引き将軍義教の狂気、歪な情愛の果ての今参局…。いやぁ、読み応えありました。2021/01/16
真理そら
64
籤引き将軍義教から銀閣寺の義政の時代を描いた6編からなる連作短編集。願阿弥、義教、今参、義政、日野富子、日野富子つながりで女郎屋の経営者の女性の6人の視点から描かれている。読後感としてはどの立場でも生きにくそうな時代っだなあということかなあ。作者は日野富子が好きなのかもしれないとも思った。勘定小町的な女性はこの時代には珍しかったから悪女的な評判になってしまったのだろうか。2021/10/14
巨峰
54
将軍足利義政とその室日野富子の時代。応仁の乱などの戦争や争いをあえてまえに出さずに描いた歴史連作短編。きっと当事者の義政なども乱に対する意識はあまりなかったんだろうな、と思った。それぞれの内面に迫りながらもどこか諦めがある感じなのは、この時代ならではでしょうか。もう少し人を信じてみたらいいのに、どうも、自分だけがあるという感じが濃厚だ。2021/03/04
keith
25
室町時代、ちょうど東山文化が開化した頃の将軍家にまつわる物語。籤引きで将軍になった引け目を持つ6代将軍義教の歪んだ悪政。政に疎く混乱を巻き起こした8代義政。彼らを取り巻く女たちの愛憎。足利家の終焉の始まり。そこには浄土はなかった。2021/02/13