内容説明
大阪万博、三島由紀夫の自決、五つ子ちゃん誕生、ロッキード事件、グリコ・森永事件、密林に二十八年身を潜めていた元日本兵―。もはや忘れ去られてしまった無数の「虚構ではない人生」を通じて、あの「蒙昧」の時代の生々しい空気が浮かびあがる。変幻自在の語りを駆使した芥川賞作家、会心の作。
著者等紹介
磯〓憲一郎[イソザキケンイチロウ]
1965年生まれ。2007年、『肝心の子供』で文藝賞を受賞しデビュー。『終の住処』で芥川賞、『赤の他人の瓜二つ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、『往古来今』で泉鏡花文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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trazom
78
コンプラ研修では「差別語だから「蒙」という字は使ってはいけない」と教えられるのに、このタイトルは大胆だ。グリコ・森永事件、五つ子誕生、大阪万博、横井庄一さん生還など、1970年から80年代にかけて起きた数々の事件が回想されるが、視点はそれらの事件の背後にある社会の闇に当たっている。希望に満ちた時代に、すでに、メディアの傍若無人、拝金主義、虐げられた人への冷淡など、現代日本の蒙昧の前史があることが示される。登場人物が隠喩で貫かれること、読点ばかりの文章のリズムなど、この小説独特の雰囲気が、恐怖感を醸し出す。2020/07/21
天の川
54
高度経済成長期からバブル直前までの出来事。グリコ・森永事件、日航ジャンボの墜落、角福戦争、五つ子の誕生、大阪万博、横井さんのグアムからの帰還…あくまでフィクションで史実ではないが、その頃の世の中の空気が記憶の中に蘇る。「我々は渦中にあるときは何が起こっているかを知らず、後になってその出来事の意味を知る。」バブル景気とその後の失われた20年を経て、気が付けば日本には翳りがさしている。私たちは「果報に恵まれていた時代」だと「美化された偽りの過去」を抱いて「滅びゆく国」に生きているのかもしれないと思わせられた。2021/03/21
いちろく
41
紹介していただいた本。グリコ森永事件からはじまる昭和の時代に起こった出来事をモチーフにした内容。一文一文だけを見たら飾り気もなく特徴も希薄な内容。ただ、句点や段落が少なく繋ぎ目を意識させない文章を継続して読み進めるうちに、少しずつ独特な世界観に酔う。見通しの良い一本道を歩いているのに、永遠に続くような感覚に陥り、いつの間にか迷子になり沼にはまっているよう。実際の出来事が基にある現なはずなのに、虚を観せられている感覚が拭えなくなった。特定の海外作品でも出会う文体手法も意識させられた、不思議な世界観。2022/02/03
ヘラジカ
40
平成生まれの自分だが何故か身近にも感じる昭和史。第二部があることを前提に読んでいるためか一作の長篇小説としては未完成な印象を受ける。しかし、構想からして非常に面白いし、半ば強引なようでいて滑らかに接続している語り口も素晴らしい。第三部どころか平成から現代にかけてまで通して描いて日本文学の歴史に残る大作にして欲しいところである。2024/06/03
niisun
39
日本が今の愚昧で暗愚な国に落ちていく様を“時の人”の目線で見つめた物語。誘拐された製菓会社の社長、角栄と対立した小柄な政治家、五つ子ちゃんの父、グアム島から生還した旧日本兵、大阪万博の目玉男。作者は1965~1985年頃を日本の蒙昧前史と捉え、盲目的な大衆に抵抗を見せた人達を描いている。“東京”を擬人化して、自ら東京の歴史を辿る奥泉光の『東京自叙伝』に似たようなテイスト。私が生まれた1972年は田中角栄が首相になり、沖縄が返還され、横井庄一氏がグアムで発見されるなど時代の変わり目だったのだと気づかされる。2020/12/29
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