内容説明
生まれた直後に養子に出された徳川秀忠の庶子、保科正之。不遇にも見える生い立ちの陰には、彼を思いやる多くの人々がいた。養母となった武田信玄の娘、見性院。人徳の高さを買われ、養父となった高遠藩主・保科正光。そして、陰日向に見守ってきた老中、土井利勝―。江戸城の外で育った「将軍の子」はいかにして稀代の名君と呼ばれるに至ったのか。その来歴を爽やかに描きだす、傑作連作短編集。
著者等紹介
佐藤巖太郎[サトウガンタロウ]
1962年、福島県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。2011年「夢幻の扉」で第九一回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。2016年「啄木鳥」で第一回決戦!小説大賞を受賞。初の単著『会津執権の栄誉』が第一五七回直木賞候補作となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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とん大西
120
地味…ながら良書だと思います。同じく保科正之を描いた長編の「名君の碑」が動なら、本作は静といったとこかも。将軍秀忠の実子なのに世にひそむ不遇の境涯。それでも逆境に耐え、支えてくれた周囲の人々への感謝を忘れず真摯に治世に励むその姿。正之の清廉なオーラは本作でも名君ぶりを発揮(まぁ、実際に人徳も男気も兼ね備えてたんやろね)。連作短編の本作は家光や幕閣の面々からみた正之像。時は武断から文治政治へ。正之が歴史の表舞台に立ったのはある意味必然かもしれません。時おり人情話っぽい書きぶりがみられるのもちょいとオツ。2019/11/18
buchipanda3
86
江戸初期の名君と称される保科正之を語った連作集。前作に続いて会津ゆかりの人物が描かれている。将軍秀忠の実子ながら、さる事情で他家の養子となった正之。徳川家本流の血が流れていることに彼は思うところがあったのでは。権勢を振るうのか、大望を持つのか、それとも…。その辺について「扇の要」で正之の心情を上手く語っていたと思う。仁の心を利勝に教示されたと述べる「千里の果て」も快哉な話だった。全体を通して気負い過ぎない読み易い筆致で、堅そうながら柔軟性も備えた正之の魅力的な人となりを丁寧に浮かび上がらせていたと思う。2019/08/29
さつき
51
保科正之を主人公にした小説はそういえば初めて読むかも。その生い立ちを様々な人物の視点から描くのは新鮮で面白かったです。2025/02/16
背古巣
42
興味のある保科正之公についての作品。短編集です。正之公自身を書いているものもありますが、正之公の周りにいた人物を描くことによって、その人となりを著そうとしているように思えます。面白かったです(^o^)✌️。2020/04/13
タツ フカガワ
41
初読みの佐藤巌太郎本。“将軍の子”とは、ひょっとしたらこの世に生まれてくることができなかったかもしれなかった徳川秀忠の庶子で後の保科正之のこと。その半生(明暦の大火後まで)を養子時代から、幕閣では異母兄にあたる家光、土井大炊頭、松平伊豆守などの目を通して描く全7章で、なかでも人情話の趣もある「夢幻の扉」が面白かった。2020/10/05