出版社内容情報
1両目が脱線し始めてから、最後尾の7両目が停止するまでの時間は、約10秒に過ぎなかったことになる。その10秒間に快速電車の車内で、乗客の一人ひとりが、どのような経験をしたのか、それは一人ひとりの人生を大きく屈折させることになった。(第一章より)
乗員乗客107人の死者を出した、JR史上最悪の惨事・福知山線脱線事故から20年。著者は事故調査に携わるとともに、遺族、重傷を負った被害者たち、医療従事者、企業の対応など、多角的な取材を重ねてきた。
脱線・転覆の10秒間に起きたこと、そのとき生死を分けたものは何か。
重傷を負った生存者にふりかかった様々な苦悩と、再生への歩み。
事故の真因と再発防止を求めて動いた被害者の努力が、企業を変えていく。
事故とは何か、人間と技術の相克の中で垣間見える「いのちの本質」とは――。巨大事故を問い続けてきた著者の集大成的ノンフィクション。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nonpono
71
人生には忘れられない事故や事件がある。2005年のJR福知山線の事故。わたしは心身を壊し入院中。もぬけの殻のようなわたしはただ茫然とその報道を見ていた。だけどこの事件に関する本は読んだことがなかった。あれから20年、柳田邦男だから読みたくなった。冒頭の写真、読後にまた見返すと涙が止まらなくなった。事故、そして事故によって人生が変わってしまった人々に寄り添い、丁寧に描く。「過去は変えられないが、未来は変えられる。過去にあったどんな辛いことでも、その経験が今の自分をつくったのだ。」あのときのわたしに贈りたい。2025/07/04
kawa
40
御年89才ノンフィクション名手の最新刊は、2004年に起こったJR福知山線の脱線事故の真因を追った秀逸大著。被害者やその家族に寄り添う、死は誰のものか=1人称(個)、2人称(家族)、3人称(社会)そして導き出される2.5人称論。そこに気付いて得心するのには、それなりの修羅場経験が必要なのかも知れない。圧巻は、JR西日本の法的責任を棚上げして、原因究明を迫った被害者家族の試み。そんな全貌をリポートして残したことが本作最大の成果なのだろうと思う。2025/06/22
ぐうぐう
38
JR福知山線脱線事故が起こって、今年で20年になるという。その20年は、被害者にとって、遺族にとって、哀しみと再生への20年だったのだろう。柳田邦男はこの機にあたって、事故を起こしたJR西日本を糾弾する以前に、被害者や遺族にとって、どのような20年間であったかを綴ろうとしている。ひとくちに被害者と言っても、乗っていた車両、場所、あるいはほんの小さな偶然の作用により、被害の大きさは異なっている。けれど、どの被害者も覚えるのが「なぜ自分がこのようなことになったのか」という疑問だ。(つづく)2025/04/22
つく
13
事故から20年、生き残った方は心身共に後遺症に苦しめられ、罪悪感を持ち続け苦しんでいる。それでも前向きに生きようとする姿に、自分の生き方を考えさせられる。2025/07/05
おやぶたんぐ
11
続けて硬質のノンフィクション。著者が著者だけに、膨大な情報量を扱いつつ、一気に読ませる。「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」(ttps://bookmeter.com/reviews/72756768)の淺野氏も主要人物の一人として登場している。同書との関係では、刑事責任追及と事故原因究明が本質的に異なることを明快に指摘し、信賞必罰をもってヒューマンエラーを防ごうとする愚かさ(処罰を恐れてミスをしなくなるというとんでもない思い違い!)を訴える第五章は必読だと思う。2025/06/02