出版社内容情報
厳寒の深夜、師・藤澤清造の終焉地に佇む北町貫多。惑いを経て、歿後弟子の初志貫徹を願う――予定調和とは無縁の至誠あふれる四作。狂える藤澤清造の残影――
独りの死者と独りの生者。鬼気迫る四篇の?夜?と?昼?
ここ数年、惑いに流されている北町貫多。
あるミュージシャンに招かれたライブに昂揚し、
上気したまま会場を出た彼に、
東京タワーの灯が凶暴な輝きを放つ。
その場所は、師・藤澤清造の終焉地でもあった――。
「闇に目をこらすと、そこには狂える藤澤清造の、
最後の彷徨の残像が揺曳しているような錯覚があった。
――その朧な残像を追って、貫多は二十九歳から
今日までの生を経(た)ててきたはずであったのだ。」
(本文より)
何の為に私小説を書くのか。予定調和とは無縁の、
静かなる鬼気を孕んだ最新作品集
西村 賢太[ニシムラ ケンタ]
内容説明
独りの死者と生者、鬼気迫る“夜”と“昼”。ここ数年、惑いに流されていた北町貫多に東京タワーの灯が凶暴な輝きを放つ。その場所は、師・藤澤清造の終焉地であった―。何の為に私小説を書くのか。鬼気迫る四作品。
著者等紹介
西村賢太[ニシムラケンタ]
1967年7月、東京都江戸川区生れ。中卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
立花孝志大嫌いおじさん・寺
89
西村賢太の本は今のところ全部読んでいる。本書は今までとちょっと違う。4篇の小説全て藤澤清造(と田中英光)絡み。巻頭の表題作は稲垣潤一(文中はイニシャル表記)のライブに招待された貫多が、満足のライブ後に会場付近の藤澤清造終焉の地で改めて決意をする話。最初の稲垣潤一近辺のくだりは「面白いけど、何を読まされているのだろう?」と思ってしまったが、夜の終焉地でメキメキとストイックになっていく貫多の心がカッコいい。そうだ、本書の貫多はカッコいいのだ。文学とは何でこんなにカッコいいのだろう。今後も西村賢太を読み続ける。2017/04/27
harass
59
世俗的な成功も収めた北町貫多は長年のファンだったミュージシャンと知り合いライブに招待される。ライブと打ち上げを終えた彼は、彼が私淑していた私小説作家の狂凍死した公園の隣にいたことに気づき、愕然とする。表題作を含む私小説?エッセイ?連作集。何のために書いているのかの動機を失いつつあり原点を見直そうとする作家の内面を描く。いつもの作風と違うと聞き借りたがフォームは相変わらず安定。以前田中英光に傾倒しそれから離れた理由があり唖然とした。私小説的な自意識がうかがえる連作集。ファンであるなら。2018/05/18
おかむら
43
貫多シリーズ最新刊。今回は貫多現在編。なんかエッセイとか日記も読んでるのでだんだん西村賢太と北町貫多がごっちゃになってきちゃったよ。芥川賞を取ってから浮かれてた自分を反省するの巻。罵詈雑言や盛大なブチ切れが無いので物足りないよ…。次は秋恵編を書いて欲しいが、今回、稲垣潤一を好きなのは実は秋恵じゃなくて自分だったということを明かしているので、その辺私小説的にどうやって整合性をとるのかしら?2017/05/04
抹茶モナカ
38
表題作をいつもの調子で読んでいたら、六角堂跡の描写で振り落されそうになった。秋恵モノも書き尽くした感のある西村賢太さんが、心の拠り所の藤沢清造に立ち返った私小説集。落語的でさえあった最近の執筆活動を見直して、初心に立ち返り、読者をある程度無視してでも書いた表題作。この本は、テーゼを提出しただけのようでもあり、大事なのは今後の執筆活動でもあろう的な。2017/05/26
つちのこ
30
歿後弟子を自認し、師と崇める藤澤清造の残影に吸い寄せられる展開を見せる表題作は、読みごたえがある。お気に入りのミュージシャンのライブで熱に浮かれた後、師の終焉の地に立つギャップに、やるせない寂寥感を感じた。著者はこの作品を駄作であると、収録された後作で何度も書いているが、謙遜のなにものでもない。これまで北町貫多の性格破綻者ぶりをさんざん読まされてきた身にとって、初めて著者の本筋が見えたような気がした。『十二月に泣く』の師の墓標を前にしての泣き笑い~最後まで読んでその感情が伝わってきた。見事というほかない。2022/04/22