出版社内容情報
六十九歳の病院長を主人公に深い人生観が透徹した芥川賞受賞作「年の残り」、戦後日本文学の金字塔と高く評価される「笹まくら」等。
丸谷全集第7回配本は、小説第二巻。
69歳の病院長が、患者の少年との関係から回想する若き日々の情景――。人生、老い、病い、死という年輪が刻み込んだ不可知の世界を、巧緻きわまりない小説作法で、過去と現在との交錯・対比のうちに結実させた芥川賞受賞作「年の残り」。
「笹まくら」の主人公・浜田庄吉は徴兵を忌避し、ラジオ修理工、砂絵師として日本各地を転々として戦時中を生き延び、無事に終戦を迎える。世間から身を隠し孤独な逃亡生活をおくった過去と、大学職員として学内政治の波に浮き沈みする現在を、変化に富む筆致で自在に描き、「戦後文学史における記念すべき作品」と評される中篇。
ほかに「彼方へ」「初旅」など、小説的趣向を存分に凝らした5篇を収録。
内容説明
徴兵忌避者が二十年後に支払う代償。死を見つめる老医師を描く芥川受賞作。未生、束の間の現世、そして死後…
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ryuko
8
「彼方へ」「笹まくら」「年の残り」「初旅」「だらだら坂」 きれいな日本語にうっとりし、小説のテクニックに翻弄され、楽しく読了です。"楽しく"は語弊があるかな。久しぶりに読書らしい読書をしたような気がする。丸谷才一全集って12巻あるらしい。制覇したいな。。2014/11/05
ロータス
2
「年の残り」は既読だったが「笹まくら」が読みたくて図書館で借りた。徴兵忌避というテーマが重く、ストーリーも明るくないため、読み終えて疲れ果てたが、この作品が戦後文学の十指に入る傑作であることは間違いない。ただ「彼方へ」も含め、丸谷才一独特の文体とストーリーテリングはだいたい掴めてきたので、「年の残り」を読んだときほどの語りに対する衝撃はなかった。気力の要る読書だったからか、読後体重が1kg減っていた。2020/12/13
Oga
1
笹まくらのみ読んだ。米原万里の選書本を読んで気になっていた。自分の考えを貫いて徴兵忌避した主人公が、戦後もその過去のしがらみから逃れられず苦しむ人生が描かれている。人間関係の微妙さが丁寧に描かれていて、夢中になった。自分の心や考えに従う生き方は美しいものの、大きな苦しみを伴うものなのだと思った。隠岐での主人公と阿貴子の出会いが美しかった。戦争についてもっと学んで考えるべきだと思った。2024/11/02
ゴロチビ
1
米原万里「打ちのめされる…」で紹介されていた「笹まくら」目当てで読んだ。性と生がテーマだから?男性読者だけを対象としているような昭和感をしみじみと感じたが、正直、凄さが解らなかった。解説によれば「貴種流離譚」でもあるらしい。阿貴子は明石の君?そもそもそこから間違えていた。悪女の深情けだと思って読んだもの。読解力の無さを恥じ入るが、思うに、いくら悩んでいても主人公に劣等感が無い、その辺りが好きになれない理由かも。村上春樹もすかした感じがダメだし。つくづく自分、太宰みたいな劣等感の塊が好きなのね、と自覚する。2017/06/28