調律師

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  • サイズ B6判/ページ数 244p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784163821603
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0093

出版社内容情報

ある出来事がきっかけでピアノの音を聴くと「香り」を感じるという「共感覚」を獲得した調律師、成瀬の喪失と再生を描く連作短編。

仙台在住の著者が、3.11を初めて描く現代小説

ある出来事がきっかけでピアノの音を聴くと「香り」を感じるという「共感覚」を獲得した調律師、成瀬の喪失と再生を描く連作短編。
ピアノ調律師の成瀬玲司は、音を聴くことによって香りを感じるという「共感覚」を獲得していた。心地よい音は、ワインのような香り、はずれた音は、生ごみのようなイヤな匂いを覚えるというものだ。その「共感覚」は、もともと色として見えていたものが、ある一件をきっかけに香りとして認識されるようになったのだ。玲司は、もともと国際コンクールで名を遺す名の知られたピアニストだったが、とある一件がきっかけで引退し、調律師として著名な妻の父が経営する事務所で、その能力をもってピアノの調律をすることで生計を立てていた。
ある日、玲司は、小学生の少女の家にピアノの調律に赴くが、その音にある違和感を感じていた。その少女の弾くピアノに、濁りを感じたからだ。気になった玲司は母親のいない時に、そのことを訊ねると、少女もまた共感覚の持ち主であると明かした。玲司にとって共感覚の持ち主と出逢ったのは二人目だ。それは、10年前に死んだ妻だった。もともと調律師だった妻は、やはり、ピアノの音を聴くことで、香りを感じることができる共感覚の持ち主だったのだ……。
妻の死をきっかけに、不思議な能力を獲得した元ピアニストが、妻の妹や友人の支え、そしてピアノの調律を通して最終的に何を獲得するのか……。愛しい人喪失と、人間性の回復を描いた大人のための連作短編小説です。
執筆中に、東日本大震災に罹災し小説を執筆することに疑問を感じた著者が、再び小説を通してどのように震災に向き合ったのかという軌跡が見事に下敷きとなった力作です。実際に主人公も震災と遭遇するシーンは、体験者ならではの壮絶かつリアルな手触りが残ります。
小説の中で引用される数々の美しい音楽の旋律と、その音に真摯に向き合う主人公の静謐な心が、だんだんと解きほぐされている様に、人という存在の強さを再確認できる小説です。

内容説明

「音」を「香り」として感じる身体。それが、彼女が私に残したものだった―。仙台在住の直木賞作家が、3.11の後に初めて描く現代小説。

著者等紹介

熊谷達也[クマガイタツヤ]
1958年、宮城県仙台市生まれ。東京電機大学理工学部数理学科卒業。中学校教員、保険代理店業を経て、97年「ウエンカムイの爪」で第10回小説すばる新人賞を受賞して作家デビュー。2000年「漂白の牙」で第19回新田次郎文学賞を受賞。04年、「邂逅の森」で第17回山本周五郎賞、第131回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

遥かなる想い

276
『邂逅の森』のイメージで この本を読むと戸惑いを 覚えるだろう。 熊谷達也が初めて描く 現代小説。「音」を「香り」と して、感じられる調律師を 通して、現代に生きる人々を 描いた短編集。全編に音楽の 響きを感じるのは、主人公が 調律師だからなのだろうか? ピアノの調律をおこないながら、 通り過ぎた出来事を描いていく。 昔のアメリカエッセイにも似て、 心落ち着く物語だが、清逸すぎて、 戸惑う面もある。最後は、ある意味、 想定通りの終わりかただった。2014/08/26

あすなろ

141
佳作なのではないか。ピアノの音に匂いや色を感じる元ピアニストで調律師の連作短編集。ピアノの世界や調律の世界ぎ垣間見れ、知れる。そこにミステリーの要素も詰まる。それだけで佳作と僕は思うのだが、後半で東日本大震災の要素が加わった。それが本作と絡み合い、熊谷氏としては途中が主題が代わるかのようなことをして良いかという疑念があったとのことだが、僕にとってはこれは震災のリアリズムが強く感じられ、成功していると思う。本作の設定に合わせるため、削いだ描写となっていることがリアリズムを強く感じた一因か。2015/07/19

さんつきくん

104
過去の熊谷達也作品のノスタルジックな描写や歴史的史実に基づいた出来事に立ち向かう人々の感傷的な描写が印象的ですが、今回の「調律師」は全然違います。妻を亡くした主人公鳴瀬。ピアニストとしての過去の栄光と傷を負いながら、調律師として音楽に携わる仕事をしていた。音の微妙なズレを臭いで解る「共感覚」という、特殊な能力を有している。6章目で「転調」せざるを得なくなる。東日本大震災。東北人として当然だが。仮に「転調」しなかった場合、どの様な終幕になったのだろう。とも思えた。2013/07/10

風眠

96
ピアノ弾きにとって、腕のいい調律師は頼れる相棒のような存在だ。自分で鳴らす楽器なのに、チューニングは人にお願いするしかないから「この人」という調律師は絶対に離さない。私にも長い間お世話になっている調律師さんがいる。それはとても幸せなことだ。共感覚(音に色や匂いを感じる)をもっている主人公の鳴瀬の目線で描かれる連作短篇であるが、調律の技術的な部分がとても面白かった。この小説執筆中に3.11があり、6話目から転調せざるをえなかったと作者は述べている。ピアノも凶器となってしまう、災害の恐ろしさを突きつけられた。2014/01/12

takaC

95
終盤の転調は予定外だったそうだが、転調しなければどんな終わり方だったのだろう。2018/01/21

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