出版社内容情報
雪ぶかい地方で、高度経済成長時代に青春を過ごした2人の母親。彼女たちの娘が停滞の次世紀に家庭を持った時、親族殺人が起きる。
内容説明
悲劇は起こる。しかしそれが何故なのかは誰にもわからない。北国で育った二人の少女がそれぞれ堕ちていく二つの渦―。日本海に面した雪深い地方で、高度成長期に青春を過ごした二人の母親、元水商売の正子と信用金庫勤務の直子。彼女たちの娘、雅美とちひろが停滞の次代に家庭を持つ。そして、二人はそれぞれ、静かに人生を転落してゆくのだった。時代と人間の宿命を作家は仮借なく綴る。著者渾身の長篇小説。
著者等紹介
橋本治[ハシモトオサム]
1948(昭和23)年、東京生まれ。東京大学国文科卒業。1977年、『桃尻娘』で小説現代新人賞佳作に選ばれ作家デビュー。小説、古典の現代語訳、評論、エッセイなど多分野で活躍。1996年、『宗教なんかこわくない!』で新潮学芸賞受賞。2002年、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞受賞。2005年、『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞受賞。2008年、『双調 平家物語』で毎日出版文化賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちえ
44
図書館「川のある風景」のテーマでの展示:どこか既視感があると思ったが、実在の事件をベースにした作品だった。日本列島改造論をぶち上げた政治家の地元、ピンクレディーの解散…時代をうまく取り込み、時代とともに、田舎町や家族も変化していくなか、二人の女の子の小学生時代から成長、人生を転落していくまで。事件自身に焦点を当てるのではない書き方が、読者に(どうしようもなかったのだろうか)とより深く問いかけとなって投げかけられる。時代を象徴する出来事の数々、自分自身がどうだったかも思い返し読み進めた。2021/08/22
松風
18
安易な「犯罪者の生い立ち」モノとは一線を画す。同時代の、「あり得た私」。2014/10/19
きゅうり
12
小説としても面白いし、戦後30年からバブル崩壊までの時代考察も興味深い。犯罪を犯した二人の女はそんな時代に翻弄されたのだろうか。キーワードは豊かになった人々が個を持てるようになったこと。しかし、その先は?ということ。ままならない人生に癇癪を起こした?受け入れられない現実をなかったことにしたかった?満たされない何かを突き付けてくれる。分かって仕舞えば、そんなものはどうということもないと開き直ることもできるのに。それは強がりだろうか。2015/07/18
いくら
11
昭和三部作と言われる『リア家の人々』『巡礼』に続いて読みました。今作品も読みやすい文章です。しかも昭和についての著者独自の洞察が興味深く、一気に読んでしまった。この『橋』は団塊の世代と団塊ジュニア世代の話だが、主人公二人の親子関係が酷すぎて悲しくなります。先進国へ成長していく中で労働に消費に忙しく大事な物が欠落した日本の姿なのだろうか。2013/03/07
むつぞー
11
淡々と描かれているのは二人の女性とその母親たちだったりするのだけれど、実際メインとなるのは昭和のその時代だという気がします。 母親たちが青春をすごし結婚した、高度成長時代から日本列島改造、バブルとその後の時代…。 ラストへ来てとある事件にたどり着くのだけれど、それまではそれが全く判らなかったので余計にその時代というものを感じたのかもしれません。 りこの時代の闇の部分や歪んだ部分の行く末として、あの事件が選ばれ、この物語が描かれたのかもしれません。 読後なんとも言えない空虚な、やるせない気持が残りました。2010/04/22