内容説明
この物語の舞台、エントラーラは、趣のある建物とそれなりの歴史を持ち、少し変わった住民たちが住む小さな町です。そこに生まれた双子、広い世界を夢見る姉アルヴァと、姉との別離に傷つき、ひきこもる妹イルヴァ。この姉妹が静かにいそしむのは、わが家のなかに「世界」をつくること―エントラーラの町を粘度の模型に写しとることでした。世界と渡り合うには個性的すぎ、また繊細すぎる姉妹のささやかな楽しみは、しかし、彼女たちの外側にある大きな「世界」を救うことになるのです。でも、どうやって?それは読んでのお楽しみ。どうぞエントラーラの町をご訪問ください。期待の新鋭が贈る繊細な工芸品のような長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あたびー
43
郵便局に勤める両親の元に生まれた双子の姉妹、アルヴァとイルヴァ。やがて家に引きこもり故郷エントラーラの粘土模型を作るようになったイルヴァ。アルヴァは彼女から逃れたいと考えたことを振り捨て、模型作りの手伝いを。 そして大地震が。 ケアリー自身が作成した粘土模型の写真が各所に添えられている。 いつかその実物を見てみたい。 地震のシーンは凄まじく、イルヴァを否応なしに外の世界に連れ出すけれども、結局またイルヴァは自分の心の中の世界に閉じこもってしまう。 多彩な登場人物とエピソード。 小さな町の中の壮大な物語。2022/07/18
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
24
アルヴァとイルヴァという双子の姉妹とエントラーラの街のファンタジー。二人の出生から死ぬまで、二人の仲違いと和解、3番目の姉妹の様に離れないエントラーラの街。二人の作ったものはプラスチック粘土のエントラーラの街だが、これが絵画や彫刻だとしたらこだわりの強い人間離れした集中力の、あらゆる社会性を排除した芸術家の話となるだろう。2021/08/03
タカラ~ム
8
エントラーラという町を舞台にした双子の姉妹アルヴァとイルヴァの物語。アルヴァが書き残した手記という形態になっている。双子はエントラーラの危機を救ったとされていて、読者は、どのような奇跡なのかと想像しつつ読み進めていくことになる。だが、そのポイントだけで読むと、何か物足りない印象を受けるかもしれない。本書は『英雄譚』というわけではなく、ちょっと風変わりな双子の人生を描いた成長物語として読むのが正しいのだろうと思う。なお、各章で掲載されているプラスティック粘土の模型は、著者本人の手によるものだそうです。2017/01/22
法水
6
『悪童日記』に並ぶ双子文学(あるのかそんなジャンル)の傑作。ただし『悪童日記』の双子がまさに一心同体なのに対し、本作のアルヴァとイルヴァは対照的な性格。エントラーラという町に住むふたりはプラスティック粘土で町の模型を創り始めるが、完成間近、町を大きな地震が襲う。海外旅行に行っても観光地よりは普通の街並みを見るのが好きな私にとって、本書はまたとないガイドブックとなった。ところで「訳者あとがき」に執筆中とあるSolitary Walkerという作品は頓挫してしまったのかな。2016/11/05
不在証明
6
アルヴァ(姉)の視点で進むので、イルヴァ(妹)が内側の深い深いところで幸せそうだと言っても、真かわからなくて、ちょっとした寂しさを感じる。妹のことを理解したつもりでも、姉は陽側の人間。妹に外の世界を教えてあげようとしたのは、たぶん善意で、正しいことだけど、それが間違ってるなんてこれっぽっちも思ってなくて。こっちは日があたってるよと連れ出そうとして、日陰に居たいと本気で望んでる人なんていないと思ってる。2015/07/01