出版社内容情報
落語家だった遊動亭円木の盲いた瞳にうつるのは、運命の女、川原の薄雪、声なき笑顔そして流れる命。夢と現の間に浮上る十の物語
内容説明
噺家だった遊動亭円木は盲いて高座をおり妹夫婦の居候になっている。マンションには牡丹がたくさん植えてあり、その名もボタン・コートという。近所の金魚養殖池のおやじや、かつてのひいき筋のだんな、ボタン・コートの中国人や、むかしの女など、さまざまな仲間に囲まれて、時に楽しく、時に哀切な円木の日々が過ぎてゆく。あるとき金魚池にはまったところ、溺れ死んだと間違えられて、生きている円木に弔問客がやってきた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ソングライン
12
21世紀になろうとするの東京小松川、師匠から破門となった盲目の落語家円木が妹夫婦の経営するアパートに居候しています。同じアパートに住む密入国した陳夫婦、円木を支援する余命の少ない明楽の旦那、父の墓参りで出会った秋田美人の寧々、様々な人々の愛と生と死を軽妙な語りで紡いでいく物語、不条理な世界を野心なく、思いやりを大切に生きる円木の姿に癒されるのです。2023/10/12
ko-sight
2
盲目の噺家遊動亭円木、名前の意味が何かと思っていたら、公園などにある丸太に鎖をつけ吊るし、前後に動く遊具だと知った。どうりで、気持ちは揺らぐがぶれないで人に信頼される訳だと思った。明楽さんとのやり取りもいい味で羨ましい。金魚もいいところで現れていた。2015/06/30
散歩いぬ
2
連作短編ながら、後半は長編のクライマックスのように読み急いでしまった。現実と幻想が溶け合う話。死や物事の終わりが繰り返されるのにどこかふわりとした印象なのは語り口の妙味かな。自身を委ね、また頼られる人間関係は、足元やその先のどこかを照らす街灯。私も懐中電灯くらい欲しいものだ。2011/08/28
horuso
1
著者の作品は比較的最近のクライムノベル?しか読んでいないので、こんなのも書けるんだとびっくりしたが、もしかしたらこちらが表芸なのかも。なぜか、情緒纏綿とか余韻嫋嫋といった四字熟語を思い出してしまうような文体と内容。神韻縹渺は褒めすぎか(笑)。夢と現実が交錯するような世界はかなり好みだが、円木の落語が神に入るさまを描いてくれたらと思ってしまう。ところで、つるつるで旦那が一八の約束を知らない演出は「夜の蝉」の円紫さんでしか知らなかったが、著者が北村薫を参考にしたのか、結構あるものなのか、どちらだろう。2017/08/26
ともこ★
1
盲の落語家、遊動亭円木のうつつの中の夢のような不思議な物語。人とのつながりが濃厚。2014/07/16