出版社内容情報
レイテで戦友から聞かされた言葉によって岩石に魅せられた男に訪れる苦難。夢と現が交錯する中で妻は狂気に誘われ、子は死に奔る
内容説明
新しい恐怖小説の出現。緑色の小さな石は、男の悲惨な生を救ったか?芥川賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
草食系
22
戦争を経験し、生き残った人の持つ記憶の苦しみ、不器用な父親、あらゆる物の流れ着く先が苦しく、時にふと聞いた言葉が輝き、人生を方向づけていく。沢山の失われる命を見てきた主人公は、長い生命の歴史を抱え込んだ石に惹かれ、自らとりつかれたのかもしれない。生と死が絡まり合い、流転し、失われる命を前に立ちすくむ主人公。やり切れないながらも、大切なものが見えてくる。文章は重厚で、狂気の場面は凛と張り詰めた空気で、美しくて恐ろしい。2013/08/28
みわーる
21
30年間の積読本。書棚を空けるためにブックオフへGO!と思ったが、もったいないからサヨナラの前にちょっとだけ読もうかな!と。しかし開いたページに、怒涛のように物語が展開し始め、途中でやめられなくなった。息を呑む、奥深な文章。脳内スクリーンに鮮やかに映し出される心と風景。さすがの芥川作家!と唸らざるを得ない。スマホを手に奥泉光を検索した。厳しく険しい眼をした小説家をイメージしていたが、どの写真も眼差しが穏やかで優しくて、なんだか逆にうろたえる。読了後、書棚へ本を戻した。貴重なハードカバー。絶対に手放さない。2024/05/05
大粒まろん
18
力強い文体で、色々想像の範囲内なのに、展開が巧く、筆力で読めてしまう。最後は良い着地点でした。が、家族として、採掘者として、戦争体験者として進む話は、意外と読むのに時間がかかってしまった。前者2つは筆が走っていて読み易い。戦争体験と学生運動の話は、文が平坦で、読むのが進まなかった。描写が何故か上手く入ってこない。経験がないと言うこともあるのだろうけど。やはり、戦争や闘争の様な内容を字数制限にある所に、他のテーマと絡めて、あそこまで、等分にしなくてもよかったような気がします。私の好みの問題かも笑。2023/06/14
大阪のきんちゃん2
12
表題作は第110回芥川賞受賞作品、先に候補作となった「三つ目の鯰」を併録。 どっちもとても面白かったデス。何でだろう?とても読み易い!芥川賞作品でこんなに読み易いのは少ないんじゃないでしょうか・・・ 石の標本を求めて分け入る秩父の山々も、月山を望む庄内平野の田舎の風景も、ちゃんと目に浮かびます。 表題作は戦争の傷跡と家庭を築く者の凄絶な末路、次作は亡父の骨を墓へ納める若者が親族の信仰と血縁のしがらみをとあるエピソードを通じて考えていきます。 文章に力があって読み応えがあります。良作デス。2020/04/15
パチーノ
11
『石の来歴』石の蒐集にのめり込んでしまったことが原因で家族が悲劇に見舞われる。その遠因をかつての戦争体験と結びつける。暗い深淵に引きずりこまれるような感覚にとらわれる。『三つ目の鯰』田舎での死に対する抗いようのない習俗、柵をキリスト教という宗教を絡ませて描いた作品。結局不気味な三つ目の鯰とは何だったのか。2篇とも暗い内容だが読ませる。2016/06/13