出版社内容情報
浮世絵師・歌川貞芳が遭遇する心中、仇討ち、悲恋の幕切れ。湯島、向島、神楽坂……江戸風俗たっぷりに人生模様を回遊する連作短編集
内容説明
刀を捨てて浮世絵師になった歌川貞芳。彼の美人画にまつわる悲恋、心中、仇討ちの数々。絵が現実を写すのか、はたまた現実が絵を写すのか?〈物語〉の悦楽をたん能させる連作短篇集。
目次
山王花下美人図
美南見高楼図前後
湯島妻恋坂心中異聞
無量寺門前双蝶図縁起
根津権現弦月図由来
向島百花譜転生縁起
墨堤幻花夫婦屏風
神仙三囲初午扇
武州浮城美人図下絵
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
真理そら
22
まさに「切絵図貼交」の9編からなる連作短編集。江戸の各所の雰囲気、季節ごとの花や行事、美女、幕藩体制のひずみから起きる諸藩の事件というほぼ同じような材料で創り上げられた物語はそれぞれ似ているけれどどこかが違う。その微妙な違いを歌川貞芳の作画活動の丁寧な記述が読者に伝えてくれる。蝙蝠の飛び交う菫色の空が見えるような懐かしくてある意味浮世離れした物語。2019/03/09
ソングライン
15
江戸に住む絵師歌川貞芳の描く美人画のモデルに纏わる事件の謎を、貞芳の友人の与力秋山治右衛門、旗本赤木半蔵らと共に、明らかにしていく短編集です。登場する女性たちは、辛い運命を背負うも、それに負けず、義を全うしようとする美人たちで、彼女らを助けようとする貞芳たちの優しさが、読者に清涼な読後感を与えてくれます。江戸の風景、日本画の奥行きを精緻に表す作者の技も絶妙です。時代小説の辻邦生もすごいです。2020/05/28
tama
5
辻邦夫さんご自身のあとがきにある、物語としての小説の楽しみを作りたかったとの言葉通り、面白いです。主人公歌川貞芳は活躍するが一向に軍団対決的展開もなければ、毎回異なる女性が出るものの愛情関係皆無。あるのは人情と風景と美しさ。なのに推理小説風。ああ、辻さんの小説、もっと読みたかった。2012/12/31
まりこ
4
静かだけど熱い情念のようなものがあまりなく、辻さんらしくない本だなと思った。でも面白かった。財政難の諸藩で苦労した人たちの殺人事件。江戸の情緒がいい感じ。2019/02/19
めにい
3
絵を描くことに没頭する画家とて薄幸の美女達。職務に忠実な男達。江戸情緒と詩情溢れる文章にうっとりと耽溺しました。江戸の古地図を見ながらもう一度読みたい。2010/01/14