出版社内容情報
オズワルドを核に、ケネディ狙撃へと吸い寄せられていく暗殺者の群──アメリカの負のエネルギーを描破した、鮮烈な傑作長篇小説
内容説明
「憎しみだけが、俺たちの強みなのさ」リー・オズワルド、ジャック・ルービー、CIA秘密工作員、亡命キューバ人…。逃れようもない渦に呑みこまれ、抗いきれない何かに突き動かされて、彼らはケネディを待った。狙撃者のつぶやき、そのわびしい汗の匂い、病んだ体熱。―鬼才ドン・デリーロの精緻な小説構造の中で、暗殺者が再び黒いロンドを踊る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
123
オズワルドに関する書籍はノンフィクションでは何冊か既読だが、史実を混じえて新たに築き上げたストーリーの重なり具合に感服した。焦点にあたる光を乱反射させているようで、不思議な読み応え。しかし、オズワルドやケネディ暗殺についての知識が少なければ、なかなか入っていけない小説だとも思う。そして、書かれたのが30年前だということに時代を感じる。今はケネディ暗殺の真相より、作家達は9.11について目を向けるだろうから、これは貴重。エレガントでない女性との付き合いを楽しみ、自らの安全の基盤を崩すなんてのは普遍なのかも。2019/02/04
ヘラジカ
42
やはりデリーロ作品の巨大さには、見上げて目が眩むような感覚を覚える。これまでありとある芸術・娯楽作品で取り上げられてきた題材が、ドン・デリーロの手にかかるとこうも多層的かつ重厚で立体感あるものになるのか。ただ単に途方もなく大きいというだけでなく、人物描写による質量も備えているというのが凄まじい。この本に関しては解説が自分の感想をすべて表現してくれていると感じた。薬物事故、ホームラン、9.11、そしてこのケネディ暗殺。歴史的イベントをここまで大迫力に描ける作家は他にいないのでは。2019/01/15
Mark.jr
3
〈われわれはみな周期的に繰り返す巨大な暗合の中で、噂と疑惑とひそかな願望の花絆の中で、互いにつながっているのだ。〉 ケネディ大統領の殺人犯として歴史に名が残されたLee Harvey Oswald。その生涯を題材にしつつ、次第にパラノイア的アメリカの暗部へと足を踏み入れていく。著者にはそのものズバリな「アンダーワールド」という作品がありますが、アメリカ社会の下に秘められているものを常に書き続けている点では、視点は違えどJames Ellroy作品に通じるものがあります。2025/05/12
康芳英
2
この本を読んでいるとリー・ハーヴェイ・オズワルドという男がとてつもなく愛おしく思えてしまう。オズワルドという男は夢想家であり、自分に都合良く未来を夢見て、それに向けて本人なりの努力もするのだけれど、そんな努力は現実の前にはほぼ無意味であり、それでも夢想し続け漂流し続けた結果ケネディ暗殺計画に絡め取られケネディ大統領暗殺犯として死んでいった。その滑稽なまでに悲しいオズワルドの人生の顛末が二十世紀最大のミステリーを私たちと同じ人間が織りなす愛おしい物語へと変えている。2013/10/05
勉誠出版営業部
1
ドン・デリーロの『リブラ 時の秤(下)』を読了。下巻に入って、さらに混沌さが増してきたという印象。結末は史実のとおりですが、やはり謎が残る…。2017/07/28