出版社内容情報
昭和十九年、小樽郊外の山中で餓死した海軍機関兵がいた。彼はなぜ停泊中の艦に戻らず、そのような最期をとげたのか。他六篇収録
内容説明
昭和19年、巡洋艦「阿武隈」の機関兵が、小樽郊外の山中で「飢餓ニ因ル心臓衰弱」で死亡した。上陸中に艦が緊急出港したため、とり残されたともいう。しかし彼はなぜそのような事態を迎えねばならなかったのか。長い歳月を経て、一片の記録から真相の追及を始めた男の前に、驚くべき事実が明らかになってゆく。…表題作以下、解きがたい謎を秘めた人の生の奇妙な一面を、みごとに掬い上げ文学作品に結実させた香り高い7篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
誰かのプリン
18
死にまつわる短編集。戦中の話から戦後の話の構成になっている。 どの話もせつなく考えさせられました。 なかでも、最後に編集されている 官給品の弁当箱が命の明暗を分けた【帰還セズ】が心に残りました。 2017/11/07
しょうご
0
地味だし、暗く塗り潰された世界観だし、笑えるところは一行もない。人間の性を背負いきれなかった者、戦中の渦に巻き込まれとばっちりを受けた者、過去の苦しみにいまだに苛まれている者、どれだけ無念さに胸を掻き毟られながらこの世を去ったのだろうと推し量ることができる者が登場し、その親族の葛藤。さまざま。それらの心中・出来事を著者は飄々と客観的に炙り出す。短篇を読み終えるたびに一呼吸置かないと次篇に移れない、五臓六脾に染み渡るから。2019/05/21