安宅正得丸の水主たち

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  • サイズ 46判/ページ数 309p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784160089327
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0093

出版社内容情報

帆船が姿を消しつつあった明治半ば、最後の商いに出た北前船「正得丸」の航海と、船を下りた水夫たちのその後の逞しい人生を描く。明治27年に最後の商いに出た北前船の「正得丸」の航海と、その乗組員たちのその後の人生を描いた小説です。江戸時代の物資の流通を支えた北前船は、明治という時代の到来とともに衰退に向かいます。帆船では、輸送力や安定性で蒸気船や鉄道に太刀打ちできなくなったからです。そうした北前船のひとつ、石川県安宅湊を本拠とする「正得丸」は、明治27年、これが最後と覚悟して大阪港を出、瀬戸内海、下関を抜けて日本海を北上、いろいろな湊で商売をしながら、北海道の小樽湊まで足を伸ばします。この小説の読みどころはふたつ。ひとつは、北前船の航海とはどういうものであったのかを、丹念な取材をもとに再現している点です。商売の仕方や航法、乗組員の仕事の分担、日常の生活ぶりなどとともに、船中での風習、待ち受ける危険にまで筆が及び、知られざる北前船の実像に迫ります。また、最後の航海を終え陸に上がった水夫たちは、ある者は鎌倉彫の職人になり、ある者は捕鯨会社に勤め、ある者はフランス料理のシェフになる、といったふうに、それぞれが新しい人生を歩み始めます。そしてその生き方は、古いものにしがみつくのではなく、かといって、いたずらに新しいものに飛びつくのでもない、いかにも明治の人間らしい、地に足のついたものでした。そうしたそれぞれの生き方が、本書のもうひとつの読みどころです。明治という激動の時代に、市井の人々はこんなにもしっかりと自分たちの人生を切り開いていったのだ、という著者からの熱いメッセージです。本書のテーマは、北前船を舞台に借りた、明治人のひたむきな生き方にあるともいえるでしょう。

宮藤 等[クドウ ヒトシ]
著・文・その他