出版社内容情報
高卒後、昭和17年春に満州へ渡った角田青年は現地で軍隊に召集され、敗戦を迎えて捕虜となり、厳寒の地へと連行された……
いま明かされるシベリア抑留と強制労働の真実――高卒後、昭和17年春に満州へ渡った角田青年は現地で軍隊に召集され、敗戦を迎えて捕虜となり、厳寒の地へと連行された……。シベリアからの生還者の声を元に綴られる中篇小説。
「気温は日に日に下がりはじめ、粉雪がひどく舞い出した。遅れて来た部隊の中に死者が出たが、零下二十度に下がると地面が凍って土が掘れなくなるため、埋葬もできなかった。土を削るように少し掘り、遺体を置き、その上に雪をかぶせるだけである。……そのため、雪解けになると狼が群がるのである。角田たちは遺体をできるだけ近いところに埋めてやるようにしたが、ソ連兵は「できるだけ森林の奥へ置いてこい」と言い張った。そうすると狼に掘り返されてしまう。角田はこのソ連兵のやり方には我慢がならなかった。
……(中略)……
気温はどんどん下がり、零下四十度近くになることもあった。そんな時にはさすがに監視するソ連兵も寒さに耐えられないので、仕事が中止になった。それは、無理に働かせて皆死んでしまうと、労働力が減って自分たちが罰せられるからでもあった。太陽は午前九時頃に上り、午後三時には沈んで暗くなってしまう。労働時間が減ってしまうので、昼もノンストップで仕事をさせられるようになり、倒れる兵も多かった。また、森林は雪で被われているため、食べるものがないのだろうか、餌を求める狼の遠吠えがよく聞こえた。」(第三章 シベリアの森林へ)