出版社内容情報
地球の環境問題が深刻なのに、僕は不妊治療なんかに悩んでいる。逃げるよう参加した気候変動会議で会った物理学者とは、世界の終末に逃げるならタスマニアだと話した。そして僕は、何かに駆られて広島と長崎ヘ被爆者の取材に来た。伊人気作家による傑作私小説
内容説明
2015年11月パリ。同時多発テロ直後の街を、ローマ在住の作家が訪れた。国連の気候変動会議COP21の取材のためだ。もう一つ、理由があった。不妊治療で妻とすれ違い、家を離れたかったのだ。それからも作家は、執筆を口実に、トリエステや世界各地をさまよう。そこで出会ったのは、親権争い中の物理学者、自爆テロ事件を追うフリージャーナリスト、研究の末に心の病に冒された宇宙物理学者。個人的で切実な問題と、つぎつぎと起こる世界的危機に引き裂かれながら、作家は対話と自問を重ねる。そして日本に向かい、広島・長崎で彼がたどり着いた答えとは。『コロナの時代の僕ら』の著者が、困難を生きる姿を赤裸々に描き、国際的に高く評価される傑作長篇小説。35カ国で刊行決定。
著者等紹介
飯田亮介[イイダリョウスケ]
イタリア文学翻訳家。イタリア・ペルージャ外国人大学イタリア語コース履修(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
62
訳者自身が作中に登場する被爆者へのインタビューを行うなどしたために、訳しながら「これは、ノンフィクションか」と思ったという私小説的な小説。世界危機が続く中、人間の終末は限りなく近くに来ていると思われる。題の『タスマニア』は、登場人物の一人が世界の終わりが来たときに逃げたい場所として挙げた場所なのだが、そこには、危機が間近に迫り個人的にもさまざまな不安を拭いきれない今、私たちは「タスマニア」のような「心の拠り所になる場所」をもつべきではないかとの作者の思いが込められていると思う。2024/04/02
ヘラジカ
47
地球温暖化や頻発するテロリズム、忘れ去られつつある原爆の恐怖、過去と現在と未来における「危機に瀕する人類」と並置されて語られるプライベートな物語。解説でも書かれていた通りとても私的な小説なのに、茫漠とした終末への予兆に包まれながら生きる多くの人間を描いた普遍的な作品にも感じる。こんなにも”今”を描いた作品を読んだのは初めてかもしれない。国内を見ても世界を見ても途轍もなく大きな出来事に揺さぶられる混迷の世にあって、自分を含めて個人の物語こそ大切にしなければならない。そんなことを想わせてくれる作品だった。2024/01/12
TATA
44
パオロ・ジョルダーノ初読み。日々の暮らしに加えてテロ、コロナ、気候変動ととかくこの世は生きづらくて生業をこなすだけでも大変。やっぱり数十年前とは全く違う社会なのだなと思い知ることばかり。一体どうすれば幸せになれるのと問いかけられても明確な答えなど示すことさえできない、そんな閉塞感をしっかりと味わせてくれる作品でした。イタリアからパリ、日本と舞台は目まぐるしく変わるのですが、最後までその流れが変わることもなく。イタリアのメディアや大学教授さんも大変と心底思わされました。2024/03/03
スイ
20
世界中で起きる暴力、気候変動といった地球の危機を感じつつ、目の前の“中年の危機”に右往左往の主人公と友人たち。 正直なところ、主人公をはじめ主要な男性陣はほぼ好きになれないのだけど、文章の巧みさ(訳も、おそらく原文も)でするする読んでしまう。 原爆被害者の語りは実際にインタビューしたものとのことで、読んでいるだけで肌が焦げるようだった。 その箇所だけでも、今作を読んでよかったと思う。2024/03/08
星落秋風五丈原
16
パンデミック後の世界を生きる作家が日本の広島と長崎にやってくる。オートフィクション。2025/05/05